第137話
結果的に言えば──激闘の末、イウリスがやっとのことで勝利した。
やはり主人公だ。完全に優勢だったアロに対し、土壇場で残ったエネルギー全てを注ぎ込み倒すという大逆転劇を見せてくれた。
血塗れで倒れたアロにドキリと心臓が嫌な音を立てたが、さすが主人公の永遠のライバル。相手チームの勝利が宣告されたあとアロのもとへ駆け寄れば「負けちゃった♡」と傷だらけでも美しい顔で笑っていたからほっと胸を撫で下ろした。
自分が持っていた力とイェナが私のために呼び寄せたアインの力によって決勝戦は2名の死亡者は出たものの、原作よりも少ない犠牲で終えることができた。
そして何より大きく変わったのは両チームに流れる空気だ。以前よりも穏やかな雰囲気で互いの善戦を労う。和解とまではいかずとも、あの禍々しい濁った空気は払拭されたようだった。
未来は変わった。しかし未だ私の記憶は消えてはいない。それには密かに安堵していた。もうすぐ物語は私が読んだ最後のページに追いつくことになる。大会が終わったあとのその先は知らないのだ。
「帰ったら──覚えてるよね?」
「……はい」
大会が終わった次の日。ホテルを出て、黒塗りの高級車に乗り込んだ私たちは行きでも使用した自家用ジェットがある飛行場へと向かう。
隣のシートに座ったイェナは握った手を離さない。彼の言いたいことはすぐに分かって私はすぐに頷いた。
「オレと結婚したら、もう元の世界には帰れなくなるよ」
最後の選択、とでもいうのだろうか。私の答えなどわかり切っているだろうに、まだ逃げ場をつくってくれるのか。
「帰れないんじゃなくて、帰してくれないんでしょ」
「……当たり前だろ」
──逃げる隙を与えてくれる癖に、矛盾した言葉。思わず笑みが漏れる。
そんなイェナの手をとって向き合う。彼の目を見上げたら、そこにはキラキラと輝く私の顔が映っていた。彼の目には、私はいつもこんな風に見えていたのかな。
飛行場に着くと、スタンバイされていた自家用ジェットに乗り込む。行きは二人だけだったのに、なぜか先にアロやフレヴァー、フランにアインまでが乗っていて驚いた。
「や、ついでに乗せてもらったよ」
まだガーゼを顔に貼り付けたアロが座席から手をあげるとイェナは舌打ちをする。
私がアインを見つけて手を振れば、綺麗な微笑みで振り返してくれたから蕩けそうになった。四人ともバラバラの席に座り、各々寛いでいるマイペースさだ。
イェナは少し嫌そうに顔を顰めたけれど、私の手を引いてアロからは一番遠くの席に二人並んで座った。
機体が動き出し、離陸する。私は窓の方に頭をつけて凭れかかっていると、眠気が襲ってくる。ウトウトと目が開いたり閉じたりを繰り返す。
「……ナツ、おいで」
そんな私を見てイェナが囁くと私の肩を引き寄せ、自分の肩へ寄り掛からせた。
「……ナツの場所はここ」
肩に回された手が頭を撫でる。無性に恥ずかしいけれど、胸いっぱいに広がる幸せを私は噛み締めて……私は目を閉じた。
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