第121話
決勝戦は一試合が終わるごとに休憩を挟むことになっている。本来は敗者の遺体を運び出したりリングの整備をしたりするようだが、今回はデケンの体は灰のように無くなってしまったから整備だけで済んでいた。
──リングなんて、あってないようなものなのに。
アロが早く闘いたくてそう呟き、ウズウズと待ちくたびれていた。
整備が終わったという合図が送られ、審判がマイクを手にリングに上がった。
「──では第二試合を始めます!!選手はリングへ上がってください!」
その呼びかけとともに軽快に上がったのはマル。そして向かい側で登場した当初は弱々しかったはずのアプリがしっかりとした足取りでリング上に立った。
「第二試合は──アロチーム・マル選手対イウリスチーム・アプリ選手!!」
この場には最も相応しくない小さな少年──アプリは正面に立つマルを見上げて唇を噛んだ。その瞳には炎が宿っているようにも見える。それに対してマルは余裕綽々でズボンのポケットに両手を突っ込んでおり、まるで不良のような立ち姿だ。
「第二試合、開始──!」
その声と同時に、動き出したのは意外にもアプリだった。ゆっくりとマルに向かって歩き出す。マルはズボンのポケットに手を入れたままキョトンとして首を傾げた。
「そんな度胸があったんだな?お前」
「……あなたに一つ聞きたい」
いつもの無邪気な声とは違う──低く唸るような声は可愛らしい見た目には似つかわしくない。
「なんだよ?」
マルは怪訝そうに聞き返す。アプリがピタリと歩みを止めて、自分よりも背の高いマルを睨みあげた。
「あなたは──グロフ族を知っているか」
声が震えていたのは、恐怖のせいではないだろう。きっと──憎しみと怒りによるものだ。マルの眉が片方だけ吊り上がる。心当たりが、あるようだ。
「僕はグロフ族最後の生き残りだ」
そうだ──アプリの悲しい過去を私は知っていた。今の今まで忘れていたが。
小さな村で平和に暮らしていた族は突如何者かの奇襲によって滅ぼされた。たった一人、まだ幼いアプリを除いて。彼は自身の家族に守られ、家のクローゼットの中に隠れたことで難を逃れたのだ。
私はアプリの話を聞きながら思い出した。村を滅ぼした犯人を探すために旅に出たこと。だがそれも気弱な性格のせいでうまくいかないでいたこと。敵討ちの道中にイウリスに会ったこと。
「よく覚えているよ、その血のような真っ赤な髪……僕の家族を殺して笑っていたあんたの顔を、忘れたことなんてない!!」
──そして、その犯人がマルだということも。
フェブルの仇はデケンが思わせぶりな言葉で惑わせたが、結局真犯人は彼ではなかった。
だが今回は違う。
「──ああ、よく覚えてるよ」
残虐非道な行為は、間違いなくマルの手によって行われたことだ。
淡々と自分の行いを認めたその表情は、何の感情も見えない。
マルの言葉を聞いたアプリはぐっと拳を握り締めて──哀しく笑った。
「……よかった、これで僕の憎しみは終わる」
彼の両手が光に包まれると、その光は弓矢の形へと姿を変える。
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