第106話


「……この大会が終わればケーキでお祝いしようじゃないか」

 今度はポンとデケンの大きな手のひらが頭の上に乗った。3人がまたとても優しく笑うから──。


「皆さん、大好きですっ!!」

 私は両手を精一杯広げて、3人に追突した。

「……!」

「やめろやめろ!!」

「はは、可愛らしいなあ」

 私の短い腕で、3人まとめて抱きしめる。デケンは嬉しそうに笑うし、マルは嫌そうにしながらも決して振り解くことはない。フレヴァーは顔を赤らめていて、その姿はあまりにも尊い。


「ありがとうございましたああ!」

「あいつの目を見ろ!!怖え!!」

 マルが指差す先──イェナは最高に不機嫌だったけれど。


 私は三人を解放すると、腕を組んでイライラしているイェナのもとへダッシュする。

「──イェナ様!!世界で一番大好きです!!」

 三人にしたように……いや、それ以上の勢いで突進すると、彼の首に腕を巻きつけて抱きついた。

「いつも私を守ってくれて、ありがとうございます!」

 咄嗟に抱きとめてくれたイェナの手が、私の腰あたりでぐっと更に抱き寄せる。背伸びをした私を抱き上げて、頭に擦り寄る彼がひどく可愛い。小さく「うん」と言ったイェナに思わず笑った。


 踵を地面に下ろすと、安堵で力が抜ける。そこで私は初めて転んだ時の擦り傷に気付いた。

「痛……」

 気付いた途端、ジンジンと痛みを実感する。私の小さな呟きにも地獄耳のイェナは反応した。素早く私が眺めていた手のひらを掴む。


「膝と手……擦り剥いてる」

 一通り怪我の有無を確認した後──ぐりん、と勢いよく三人を振り返ったイェナ。その目に光はない。

「ああ!?俺らのせいかよ!?」

 彼が何を言いたいのかピンと来たマルが真っ先に抗議する。だが、イェナには通用するわけもない。

「傷一つつけるなって言ったよね?」

 真っ黒な瞳がゴゴゴ……とマルに迫る。その迫力にマルはぐうの音も出ないようだ。仕方がないから助けてあげようと口を開く。

「さっき私が転んだ時ですよ、きっと」

「そいつがどんくせーんだろ!!」

「ええええ……」

「オレなら抱きとめる」

「知るか!!」

 ──せっかくフォローしてあげたと言うのに、私を馬鹿にしたマルにムカついた私はイェナの服の裾をくいっと引いた。すぐに「どうしたの」と振り返ってくれるイェナを上目遣いで見る。


「……マルさんには銃でぶたれました」

「は?」

「お前……!!」

 マルがワナワナと震えているが、知ったことではない。それよりも、イェナの声が1オクターブくらい低くなっているのが面白い。

「痛かったです。死ぬかと思いました」

 可憐な乙女を演じてぶりっ子すると、イェナは──普通に騙されている。これぞ恋は盲目。

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