第104話

 

 私を抱え、敵の男たちを倒しながら森の中を進んでいく。ミルは一体何人の刺客を差し向けたのだろう。倒しても倒してもキリがない。その男たちの屍を踏みつけて、私たちは進む。


 なかなか打破しないこの戦況にマルは苛立っているようだった。私のせいで片手が塞がれているのだ。自由に動き回れないことに申し訳なさを感じる。

「マルさん!下ろしてください!そうすればもっと……」

「馬鹿かよ!!あいつらの狙いはお前だぞ?袋叩きにあう気か!?」

 ガンッと持っていた銃で頭を小突かれる。マルは軽い力のつもりだったようだけど、もちろん私にとっては激痛だ。

「それは嫌ですけど!」

「だろうな!俺も嫌だよ!」

 口喧嘩をしながらも、マルは攻撃の手を止めない。さすがアロのチームメンバーというべきか。

「なんでですか!」

「お前に何かあったら俺がイェナに殺されんだろ!!」

 この人はどれだけイェナにビビっているのだろう。でなければ、よほど義理堅い人なのか。


「でもこのまま足手纏いになるのは本意ではありません!!」

 半ば叫ぶように言うと、しばらく唸ったあとマルは大きくため息をついた。

「……しゃーねえな」

 彼は戦いながら辺りを見渡して、大木を探す。そして見つけたその木を手を使わず駆け上った。枝の上に立つと、またキョロキョロしては何かを発見するとニヤリと笑った。

「舌噛むなよ?」

 その意味を問う前に、私は再び空中に投げられた。


「フレヴァー、パス!!」

「……!」

 私の目では追えないほど風を切って、ものすごいスピードで飛んできたフレヴァーが私を受け止める。


「無事にイェナに届けろよ!!」

「……わかった」

 そのまま木と木を飛び移りながらマルやデケンから──正しくは刺客たちから──遠ざかっていった。


「……怪我はありませんか?」

 私を横抱きに抱え直すと、フレヴァーは気を遣って声をかけてくれる。「大丈夫です」と簡潔に答えるとホッとしたように眉を下げて笑った。


「イェナのもとへ急ぎます」

 私がその言葉に頷いたとほぼ同時に彼はまた地面を蹴り、走り出す。鎧を外した身軽なフレヴァーのスピードには誰もついてこれず、あっという間に高い崖も駆け登った。



 崖の上に着くと、フレヴァーは私を下ろす。地面に足をつけると、私はすぐに闘技場のある方へ走った。そう時間がかからないうちに、私が突き落とされた崖へと辿り着き、人影が見えて思わず息を飲む。

「──イェナ様!」

 イェナがミルの首を片手で掴んで持ち上げているところだった。彼女は崖の先で宙ぶらりんになっている。彼が手を離すと真っ逆さまに落ちてしまうだろう。遠目でも分かるほどに殺気が色濃く彼を取り巻いていた。

「……ナツ」

 こちらを向いたイェナが私の顔を見ると殺気を少し抑える。ホッとした私が駆け寄ろうとすると、足が縺れた。タイミングの悪いドジを踏むのはこれで何度目だろう。


「ふぎゃ……」

「あ、コケた」

 距離的にイェナが受け止めるのは無理だろうが、仮に駆け寄って来たら必然的にミルから手を離すことになるのでそうならずに済んでよかったと思おう。


 ザザッと地面に転んだ私をイェナは「何回転んだら気が済むの」と怪訝そうに言い、ミルを崖とは反対方向に放り投げるとこちらに歩み寄った。

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