第2話 二人組

炎は強花の手を握ったあと、改めて周りを見回した。


「やっぱり豪華なんだよなぁ」


ただの独り言だったが砦が反応した。


「広いから迷うっすよね?そうだ!みんなで炎さんにここを案内しましょ!」


「愚民の為に動かなければいけないの?」


「そう言っていつも案内してあげてるっすね」


「うるさいですわ!」


早苗が頬を赤くすると恋音がクスッと笑う。


「確かに、早苗ちゃんは優しいですから」


からかうように言った恋音のことを早苗が軽く睨む。


「案内なんて...ご迷惑では?」


「いいんだよ〜!ほむらんとはもう友達でしょ?」


「そ、そう...ですね」


フレンドリーな合歓に少し翻弄されつつも炎は案内してもらうことにした。


 ーーーーーーーー一階ーーーーーーーー

「はぁはぁ、下りもきつい階段...」


炎は忘れていた。下りもこの階段を使わなくてはならないことを。


「ここが一階だよぉ、私のフロアだねぇ。」


私のフロアという言葉に少し引っかかった。


「それぞれに管轄でもあるんですか?」


「管轄っていうよりかは、部屋のある階だな。一階には惟呂羽の部屋があるから惟呂羽のフロアだ。」


端的に説明した強花は自信ありげに腕を組む、炎は辺りを見回し、確かにピンクが多いことに気づいた。


「何か用があったら来るんだよぉ」


呑気な声が響き、七人の小さな笑い声が生まれた。


 ーーーーーーーー二階ーーーーーーーー

一階から二階へ上がるのはもうそこまでの苦痛ではなくなったらしく炎の息は上がっていない。


「二階は自分のフロアっす!名付けて砦フロア」


「そのままですわね」


早苗のツッコミに砦は頭をポリポリと掻いて応じ、どこからともなく飴を出して舐め始めた。


「なんか食べてないと空腹が治らないんすよ」


困り顔で笑う砦の声は少し、ほんの少し震えていて、低いトーンだったように思えた。


 ーーーーーーーー三階ーーーーーーー

「わたくしが最上階でないのは不満ですが、

わたくしがこの塔へ来た順に忠実で悪い気はしませんわ、わたくしのことを考えた分担。

この運営と名乗る人物は中々見込みがありますわね、是非会ってみたいわ」


相変わらず偉そうに話す早苗は手を腰に当てて胸を張っている。胸元のペンダントが緑色に輝き、眩しかった。


 ーーーーーーーー四階ーーーーーーー

「私のフロアだよ〜!ほむらん見て!」


はしゃぐ合歓はどこか危なっかしい。

フロアに可愛らしい犬の人形を置いているかと思えば大きな槍が置いてあったりと謎だ。


「これ、なんか置いてあったんだよね〜、槍なんて私の趣味じゃないのに、物騒で。私はもっとポップでラブリーな可愛いこの、犬みたいなぬいぐるみが欲しいのに!」


頬を膨らませる合歓を恋音が撫でて宥めた。


 ーーーーーーーー五階ーーーーーーー

「ここは私のフロアです。置いてある針は気にしないで下さい。合歓ちゃんの槍と同じく置いてあったものですので。」


炎は武器の多さを不審に思ったが触れないでおいた。


ーーーーーーーーー六階ーーーーーーー

「ここがあたしの部屋だが文句はあるか?」


いきなりの喧嘩腰に炎が怖がると


「大丈夫だよぉ、強花は優しいからぁ」


と楽観的な声が聞こえた。


「あたしがこの塔に来たのには理由があるんだ...」


浮かない顔で呟いた強花の顔が炎の心にこびりついた。


ーーーーーーーーー七階ーーーーーーー

残ったフロア。集合した最上階の八階を除いた全ての階は他のメンツの管轄らしいので、

炎は自然と察した。


「私のフロアですか?」


「そうっすね、余ってるし、使っちゃえってことだと思うっす!」


確実ではないのかと不安に思いながらも炎は自分の部屋であろう場所を覗く。


「結構広いんですね!」

テンションが上がった様子の炎に合歓が跳ねながら


「そうでしょ!ほむらん喜んでくれた!」

と自分のことのように嬉しそうに笑う。


「案内って言うとこのくらいですわね、あとのわからないことはその都度聞きなさいな」


フンと顔を背けた早苗を見て、炎の中の早苗の印象は怖い人から優しい人に変わっていた。



数時間後

炎は強花に呼び出され、六階の強花の部屋の前で落ち合った。


「いきなりで悪いんだが...。炎」


歯切れ悪く言う強花に違和感を持ちながらも急かさずに沈黙を貫く。


「あの、炎。あたし達はペアを組んでんだ。

7人だから1人あまるけど。3人組もいて。

それでだ、あたしは炎が気に入った。礼儀正しくて優しそうで、あたしを受け入れてくれそうな...。そんな。だから、あたしとペアを組んでくれねぇか?」


強花のお辞儀を始めて見た。乱暴な言葉遣いだが決して悪い人物では無さそうだ。


「...いいですよ!」


多少の無音の後、炎は元気よく頷きながらそう言った。


「本当か!?なら、盃だ!」


「強花さん!私未成年なんですけど、、、」


「かてぇな、ジュースでいいんだよ。はい、乾杯!」


「か、かんぱい」


どこからか差し出されたオレンジジュースで乾杯して強花と相棒(?)になった。

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