討伐前日
翌月の
ローランは騎士団にとっても、商人にとっても大切な町だ。周辺で魔物の被害が多発し、今回は騎士団が派遣されることに。
町が襲われてはいないが、襲われてからでは遅い。町は騎士団の武器や防具を作る場であり、失うわけにはいかないのだ。
「一月の滞在で、俺達はランダートからローランの間、ここが持ち場だ」
集められた数人の騎士達は、クオンの話を聞きながら頷く。
月光騎士団の小隊を任せる騎士達で五人いる。その中には今回から任せることにした、イェンテ・オースブラも当然いた。
「昼の責任者は俺がやる。補佐はリーナだ」
「はい。お任せください」
本当は夜が好きだったりするが、リュースに怒られてからは昼の指揮にしているという裏話があったりする。
昼と夜に分け、そこからさらに三つへ分ける。各騎士団によって違いはあるが、現在月光騎士団はこの体制でやっていた。
クオンが信頼できる小隊長が、少ないのが最大の理由だ。
(信頼できて、判断力があって、束ねることができる人材か…)
難しいものだとため息が漏れそうになり、慌てて呑み込む。今は職務中なのだ。
「夜はリュースだ。リュース、フィル・ラムゼリスの同行を許可する」
「ありがとうございます。実戦に勝る経験はありませんからね」
(鬼だ…)
(鬼ね…)
ニッコリと笑う副官に、クオンとリーナは同時に同じことを思った。
おそらく、他の小隊長達も同じことを思ったのだろう。なんとも言えない表情で、さりげなく視線が逸らされたのだ。
頑張れ、と思ったかもしれない。リュースの隊へ組み込まれた新人騎士へ。
微妙な空気になったその場だったが、クオンは切り替えて話を進める。
「昼の隊だが、レナス・ヴァレリエス」
「はい。いつも通りでよろしいですか?」
「あぁ。任せたぜ」
彼女は北の大陸には珍しい、セイレーンの女騎士。北生まれの北育ちで、月光騎士団でも上位クラスの実力者。
「ふふっ。クオン様に任されたら、しっかりとやらなくてはね」
「嫌な予感しかしねぇ」
「終わったら、クロエ様との手合わせをお頼みしたいです」
「わかったよ」
腕を磨くための手合わせだと知っているだけに、それならいいかと思う。エラのように媚びるわけではないから。
(むしろ、こいつなら嫁でも…)
あれはダメだがこっちならいいよな、とか思ってしまう。副官としてくれと言われたら拒否するが、と内心付け足す。
クオンにとっては大切な部下なのだ。
「シャリーネ・イース、今回は補佐を頼む。イェンテ・オースブラ、初任務だ」
「期待に応えられればいいですが」
少し不安げなイェンテだが、補佐につけるのは普段小隊長をしているシャリーネだ。問題はないと思っていた。
彼女は経験も積んでいる。この一ヶ月で、彼を小隊が率いれるように育ててくれるだろう。
そうでなければ困る。他の騎士団に比べれば人材不足なのだから。
「夜はいつも通りだな。シルビ・アージェントとシンディ・アリーゼ。シンディの希望だったシアシュリトの同行も許可はするけどよ…」
なにか言いたげな視線に、リーナが問題ないと言う。
「もし口説いても、返り討ちにすると思うわ」
「じゃあ、いいか」
独り身のシンディは、よく口説くと有名だったのだ。その場にいた全員が笑えば、シンディは不服そうに見た。
さすがにやらないと言いたかったのかもしれない。
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