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「玄米茶です。どうぞ、お召し上がりください」

 目の前のちゃぶ台に、伝統的な湯呑みが三つ、丁寧に置かれる。犬掛いぬかけは「よいしょ」と腰を下ろすと、その内の一つに口をつけた。

「い、いただきます……」

 鷺宮さぎのみやは青い柄の入った湯呑みに手を伸ばし、その優しいにおいを口に含んだ。玄米茶が持つ独特の味わいが、ゆっくりと広がっていく。

「あ、よろしければ、こちらもどうぞ」

 ちまちまとお茶を飲み始めた鷲宮さぎのみやたちに、犬掛いぬかけは思い出したようにお菓子を持ち出した。オレンジピールが乗ったカップケーキ。美味しそうだが、この場の雰囲気とあまり合っていない。

「……これって、あなたが作ったの?」

 ……米倉の顔がさっと曇る。彼女は知っているのだ。アニメ内の犬掛いぬかけが、非常に残念な料理を作ることを。見た目とは裏腹に、お腹を壊すような出来なのだ。

「安心してください。私が作ったものではないので」

 その言葉の裏を察したのか、犬掛いぬかけはにこやかな笑みを浮かべてこう答えた。それを聞いた米倉は、途端にほっとしたような表情になる。

「じゃあ、貰おうかなー」

「じゃあ」というのは失礼な気もするが、犬掛いぬかけは特に気に留めている様子もない。鷺宮さぎのみやも「いただきます」と声を掛け、そっと手を伸ばした。作り立てなのか、ほのかに温かい。

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