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「こんにちは」

 ――少女の挨拶とともに、さあっと視界が晴れた。足元には石造りの小道が現れ、左右には立派な桜の木が生える。澄み渡る青空に、心地の良い風。突然の情景の変化に、鷺宮さぎのみやは口をポカンと開けた。米倉も、両目をゴシゴシと擦っている。

「ようこそ、佐宗さそう神社へ」

 振り返ると、そこには紺色の巫女装束を身に纏った、可憐な少女がいた。少し癖のついたミディアムヘアの白髪に、キラキラと輝く髪飾り。美しい碧眼を持った彼女は、呆気に取られている二人を見て、ニコッと笑い掛けた。

「どうぞ、こちらへ」

 彼女の示す先には、荘厳な本殿がある。先ほどまでの小さな祠は、一体どこへ消えてしまったのだろうか。

「え……、え……」

 彼女の顔を見た米倉は、壊れたおもちゃのように「え……」を繰り返した。目の前で起きている出来事が、彼女には到底信じられない。

「えーーっ!? 『幽玄の巫女』の犬掛いぬかけーーっ!?」

 鼓膜を裂くようなその叫び声に、巫女少女はゆっくりと頭を下げた。

「はい。『幽玄の巫女』の、犬掛いぬかけあさひです」

 鷺宮さぎのみやは咄嗟にスマホを開き、チラシのイラストを拡大した。……そっくりそのまま、イラスト通りの人物が、そこにいた。


 鷺宮さぎのみやの頭が追いつかない内に、彼女は犬掛いぬかけに連れられて、本殿の中に足を踏み入れた。居間のような空間に通され、恐るおそる畳に正座をする。

「先輩……。あの子、本当にアニメのキャラなんですか?」

「間違いないよ! コスプレにしては完璧すぎだし……」

 米倉は興奮した様子で、奥に消えていく巫女少女を見送っている。アニメ好きからしたら、心臓が止まるほどの大サービスだろう。

「でも、こんなことってありえますかね……?」

「私も信じられないけど……。あの犬掛いぬかけは本物っぽいよ……?」

 この景色の変わりようといい、あの犬掛いぬかけの完璧度合いといい、まさに幻想の世界にやってきてしまったようだ。それか、狐にでも騙されているのだろうか……。

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