ファンタジー職業人、お貸しします!

中田もな

ファンタジー職業人、お貸しします!?

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「な、何これ……」

 東京二十三区内にある、とある女子大。弓道部員である鷺宮さぎのみやは、新入生募集のポスターを掲示板に貼ろうとしたところ、おかしなチラシを目撃してしまった。可愛い画鋲が刺された、カラフルな再生紙。一見するとただのチラシだが、そこに書かれている文章は実に奇妙だった。

「『ファンタジー職業人、お貸しします』。……ちょっと待って、どういうこと?」

 でかでかと印刷された、ゴシック体の文字。その下には、アニメのような巫女服を着た少女のイラストが。紺色の袴を揺らして、「ぜひ、お気軽に!」と喋っている。

 あまりのインパクトに、鷺宮はそのチラシを凝視してしまった。すぐに四限の授業が始まるというのに、目的のポスターも貼らずに、続きの文字を追ってしまう。

「『あなたのお悩みを、ファンタジー職業人が解決いたします! 詳しくは、千葉県・佐宗さそう神社までお越しください!』」

 小さな声で、ブツブツと文面を追う彼女。その後ろでは、次の講義室へ猛ダッシュしている新入生の姿があった。

 チラリとチラシの下に目をやると、貼り出し許可印が押してある。日付は四月一日。貼られて間もないチラシのようだ。

「エイプリルフールのネタかなぁ……? どこのサークルか知らないけど、随分手の込んだことを……」

 鷺宮さぎのみやは黒のボブヘアを傾けながら、思わず苦笑した。イラストもかなりの腕前であることから、おそらく漫画研究会か何かの仕業だろう。「佐宗さそう神社」というのも、アニメに登場する架空の神社の名前かもしれない。


 ……そのとき、スピーカーから無機質なチャイムが流れてきた。これは、四限の始まりの合図だ。

「げっ! やばっ!」

 次の授業があるのに、呑気にチラシを読み込んでいた彼女は、ひどく慌ててその場を後にした。次の授業があるのは、隣の棟の講義室だ。

「ポスターは……、部活が始まる前に貼ろう!」

 すっかり貼りそびれたポスターを片手に、彼女は急いで渡り廊下を駆け抜ける。パタパタと軽い足音が、黒いジーンズとともに遠ざかっていった。

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