ハスキーハリーの話

Mikoto@飼い主

始まり

この世界には二つの世界を繋ぐ

「隙間」

というものが存在する。

もしも、それがなかったら、

彼に出会うことはなかっただろう。


僕らの知らないもう一つの世界には、

人と動物の境界線がほぼなく、

世界の発展の為に、

あらゆる実験を行い、

様々な発明が生まれる。


中でも、人と動物との関係性に関しては、

恋愛や結婚なども認められ、

遺伝子調整の技術を使って、

猫耳の女の子や、触手を持った少年など、

多種多様な子供達が生まれている。

だからといって

いじめや喧嘩などはほとんど起こらない。

何故ならこの世界の教育には、

「違うものが間違い」

という概念がなく、

子供達も、小さな頃から、

「違うのは当たり前なことで、

違うからこそ、それぞれの良さがある」

と教えられるからだ。


だから、戦争もなければ、

お金や時間に縛られることもない。


唯一あるのは、

「死ぬ」

ということだけだろう。


さて、そんな世界の中、

こちらの世界でいう日本に位置する場所のある山の上に

名前も知られていない老人発明家がいた。

発明家は若い頃から人と動物の融合の実験を繰り返し、

長い年月をかけて、遂に、

ハスキー犬と人の遺伝子融合に成功した。

実はこの世界では

ハスキー犬と人との融合だけは成功例がなかった。

この世界としてはとんでもなく大きな発明となった。

が、しかし、

どうやって、どのくらいの配合で融合させたのか、

歳を取った発明家はそれさえメモを取ることを忘れていた。


しかし、奇跡の配合によって生まれたハスキー犬の少年は、

紛れもなくそこに立っていた。


顔は犬。体は人。

手にはちゃんと五本指がついており、

時間はかかったが、

言葉も食事も覚えた。


まだ小さな少年に名前はなかった。

発明家は「坊や」と呼んで可愛がった。

遊ぶのが大好きな少年は、

いつも晴れの日は外に飛び出して遊び、

雨の日は部屋で積み木などを使って遊んでいた。


それから数年が経ち、

発明家も老いには勝てなくなっていた。

人の年齢で言えば九十歳を越えていたからだ。

体も思うように動かなくなり、

最後の時を悟った発明家は、

少年にこう言った。


「坊や、わたしはもう動けない。

そろそろ行かなくてはいけないんだ。

お前の知らない遠い遠い所へ。

だから、お前を一人にさせることになってしまうが、

どうか泣かないでくれ。

街に降りれば、きっとお前を助けてくれる人はいるから。

どうか元気でやってくれ。

大丈夫、お前ならできるさ。」


それが発明家の最後の言葉だった。

少年は子供ながらに「死」というものに触れた。

それは寂しく冷たくとも、

その顔だけは優しかった。


別れの朝。

少年は初めての旅立ちに

何を持っていけばいいのかわからず、

結局着の身着のまま

「さよなら」

を告げた。

発明家は目を閉じたまま、

まるで眠っているようだった。


山から街への道はかなりあった。

朝方出発し、荒れた道を踏み越えながら、

お昼に差しかかる頃、やっと街まで降りてきた。

初めての風景、初めて見るものばかり。

どこへ行ったらいいかもわからず、

少年は小道へ入った。


大通りには人がいっぱいいた。

その多さに驚いてしまって、

少年は小道から出ることができなかった。


ふと、辺りを見回すと、

建物の壁に、少年が入れるほどの隙間があった。

「この中に入って少し落ち着こう」

そう思った少年は、その隙間へと潜り込んだ。

だが、よく見ると向こう側が明るく見えた。

「どこにつながっているんだろう」

好奇心を持った少年は、

そのまま明るい方へと進んで行った。


しばらくすると、どうやら反対側へと辿り着いた。

しかし、見た感じは入った時と同じ。

「あれ?なんか変だな」

と思った少年。

それもそのはず、聞いたことのない音、

嗅いだことのない匂いがしたからだ。

それも鼻を刺すような匂いだった。

何がなんだかわからず、

少年はただそこから動けなくなっていた。

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