第30話 わたしたちのたたかいはこれからです
「さて、とりあえず長編の応募も済ませ、次なる挑戦を聞いておこう」
「GW以降、たくさんの作品を拝見させていただきました。何度も筆を折ろうと考えました」
「ほう、やっとその伸びに伸びた鼻の高さに気付いたというわけか」
「そんな実感はこれっぽっちもありませんが、読めば読むほど自信を無くすばかりです」
「つまり幸せな時間を過ごせたのだな」
「……幸せ、私の劣等感と焦燥感を刺激するこの感覚が、幸せ?」
「面白い作品に出会えたのだ、それを幸せと呼ばずなんという? まさか、自分の作品と見比べるつもりでヨムヨムしていたのかね?」
「そんなつもりじゃ……」
「きみな、ついしばらく前まで小説はおろか、物語を紡ぐことすらしてこなかった、ど素人が何を勘違いして上から目線なのだ? 劣等感? そんな言葉は100年早いぞ?」
「つまり、寿命で死ぬまでその言葉は使ってはいけないのですか?」
「何歳になってもチャレンジできる代わりに、何歳になっても何年キャリアを重ねても、謙虚であることを忘れていはいかん。そもそも何をもってきみは他者の作品を評価しているのだね?」
「自分には絶対に生まれない着想や、絶対に書けない表現ですかね……」
「きみな、きみの作品だって、書くタイミングによって内容は変わるのだぞ? 内容によってはネットで調べて書くこともあるだろう? だがな、ネット上の情報だって必ずしも正しい保証はない。それを利用した結果、ネタ元が前言を撤回するなんてザラだ。そう言った意味ではきみの脳が変化する限り、記述したタイミング以外で同じ表現になるとは言えない」
「私自身の中に、気付かないだけで、無数の表現が眠っているのですか?」
「以前、自動書記で書くと言っていたな。物語の分岐点を一つしか見つけられない、と」
「ええ、素人の限界だと」
「今でもそうかね?」
「指向性は、変えられるのかもしれません」
「一番書きたいシーンを変えずに、ルートを選ぶ余裕ができているのではないかね? 今よりもっと良い表現、もっとワクワクする描写、つまり、きみが他の作品を見て劣等感を抱く前に、今まで書いた作品をお蔵入りにしたくなるような作品を書き続けるしかないではないか」
「戦う相手は、他者ではなく、自分自身……」
「いかにも! 昨日より今日、今日より明日、書き続ければ上手くなれるとは限らんし、書いて書いて書きまくった先に結果がついてくるとも限らん。だが、きみの中から生み出されるモノは唯一無二だ。そして少なくとも、きみはその物語に責任をとらなくてはならない」
「責任? 最後まで完結させるということですか?」
「作品は子供と同じだ。産んで育て手塩にかけ、にも関わらず、その子が大きな成功を成し遂げられなかったらどう思うね?」
「……想像で言えば、元気で生きていてくれさえすれば、それで」
「産みだした責任とはそれだ。どんな結果になろうとも、きみだけは無償の愛を注ぐのだ。見返りなど求めずにな」
「……私の行動に見返りを求めているのは社長ですけどね」
「すべては、きみに自分の成果物を愛してもらうための壮大な計画だ。今だから言うが、きみの設計する機械は無機質過ぎた。今ならきみも素晴らしい設計ができるはずだろうさ!」
「……そういえば営業が新規で短納期の仕事を取って来てましたね」
「明日からきみは「設計部課長」だ!」
「すぐ退職届書くんで待っててください」
―― 了 ――
新作執筆中のつなぎとして、思いつきで書き始めた会話劇が、気付いたら30話になっていました。
いろいろと嘘に塗り固められた物語で、基本的にフィクションなので、もし何かに気付いてしまっても内緒にしていてくださいね?
読んでくれた皆様へ、心からの感謝と、良いことが起こる呪いをかけて終幕とさせていただきます!
ありがとうございました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます