第26話 恋愛小説って経験必要です?

「なんで恋愛小説の内容についての考察が儂に対する中傷に繋がるのだ?」

「そもそも内容にいちゃもんをつけて来たのが発端でしょう?」

「いちゃもんとはなんだね、きみほどの恋愛遍歴を持った、恋愛マスターとしてのきみが世に問う問題作くらい鼻歌で書けるだろうが?という激励のつもりだが」

「作品をディスるのはまだしも、嘘八百並べられる私に対する中傷はいかがなものかと」

「嘘八百?」

「八百屋、八百長、八百万、八百はたくさんですよ」

「いやそれは知っているが、きみが浮名を流してきたのは嘘なのかね?」

「それは、観測する立場によって評価が異なるとしか……」

「まあ儂はそのあたりは肝要だ。だがせっかく得た経験なのだ、活かせばよいではないか」

「身バレはしゃれにならないのです」

「刃傷沙汰必至ということか」

「ご想像にお任せします」

「だがな、経験していないことを、まるで見てきたように書くことも必要だぞ?第一、公開中の長編、異世界モノじゃないか」

「経験したことだからこそ書けないということもあるんです。フラッシュバックがすごいんです」

「ふむ。創作の落とし穴という奴か、実体験がキツイほどそれをネタにしようとするとトラウマが刺激される、と」

「まあ私だけの問題じゃありませんからね、恋愛でなにかあれば、最低二人以上の心的外傷が生みだされるのです」

「つまり創作し公開できないのは、自分だけでなく過去の相手に対する配慮があるということかね?」

「いろいろな実体験をネタにすることに躊躇するのは、自分では笑い話でも、相手にとっては生涯忘れられない屈辱ということだってあるでしょう?」

「経験を公開するのにあたり、いちいち当事者の同意をとるのも大変か」

「そもそもどこまでが当事者かって話もあります」

「関知していない第三者がしゃしゃり出て、それは自分に対する名誉棄損で精神的慰謝料をよこせ、となる場合もあるか」

「もし私の創作がきっかけになった場合、これ、業務の一環ですからね?裁判の費用は社に持ってもらいますよ」

「発端はきみの下半身だろう?」

「下半身だけとは限りません」

「たしかに、言葉や文字や行動といった成果物も要因か」

「私を全否定する流れですか?」

「罪を憎んで人を憎まず、だな。きみの成果物の中には創作物も含まれる。それがけがれを祓いみそぎを済ませる手段である以上、裁判費用くらい稼いでみたまえよ!」

「訴訟前提で話をしないでください。別に過去を悔いて懺悔の為に創作しているつもりはありませんし、冷静に考えてみれば、死ぬの生きるのといった話にこじれたことはありません」

「きみがどう思おうと、事象に対する評価は他者の数だけ存在するのだ。観念して筆を取るのだ」

「書いても現状お金になりませんけど?」

「儂の欲求は満たされるのだ」

「けっきょく言いたいことは「続きはよ!」ですか?」

「ワッフルワッフル」

「だからそんな古いネタを振られてもエロ展開にはならないんです」

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