第4話 ペンネームです
「いやあ快諾してもらえて嬉しいよ」
「快諾?一度たりともそんな素振りを見せましたかね?とにかく整理します。目的は売れる本を世に出すでいいんですか?」
「結果、我が社が潤う。きみも潤う」
「……で、社内で適正者を選ぼうとしたけど、もし掘り起こしに成功してしまったら、その適正者はここではない道を選ぶ懸念があった……そもそも、その人物にこんな奇天烈な異動を指示すればいいんじゃないですか?」
「フットワークの軽い一般職からは難しいだろう。故に管理職であるきみに白羽の矢を立てた」
「私なら辞めないと?」
「そのためにきみをリサーチしてきたつもりだが?」
「くっ、先に弱みを握っておいて、何かの時のためにとっておいたのですね?」
「情報とはな、集めるだけじゃなく使うためにある。逆に言うとだな、何かに使えるかわからん情報もとりあえず集めておくものだ」
「いい話っぽいですがゲスの思考にしか聞こえません」
「成功のきっかけは些細なものだ。で、繰り返すが快諾ということでよいのだね?」
「……はぁ、もう諦念ですね。で、書籍化までが命令ですか?所用期間と予算、私の待遇や所在地、役職などはどうなりますか?」
「相変わらず細かいなきみは」
「社長が大ざっぱなんです」
「ふむ。それはさておき、きみの真の役職は「文芸部部長」ということになる。基本待遇は今と変わらん」
「昇進しても待遇は課長のまま?」
「その代りに、適時成功報酬を支払おうじゃないか」
「適時とは?」
「まあ儂も目標の設定を掴みかねている。最終目標は売れる本でいいだろう。売れるの定義は、捕らぬ狸のなんとやらだな、後で考えよう。そうさな、なんらかのコンテストで賞を取る度に、その賞に設定されている賞金の10倍とかどうだね?」
「……今『カクヨム』でやってるコンテスト、大賞で30万円ですね」
「……5倍くらいにしておくか」
「はあ、どっちでもいいです。第一、賞なんか取れませんからね」
「書いてエントリーしなければ、な。参加せずに諦めるでない」
「まあ、いいです。期限はどうします?」
「とりあえず一年間に、最低でも三つくらい公募に出してもらうぞ」
「一年に三つ、多いのか少ないのか……まあ、どんなコンテストに出るかは、都度、協議しましょう」
「聞き分けがいいな」
「もう定時過ぎですからね、早く帰りたいんです」
「秘密保持契約書でも作るか?対価やら代価やら」
「社長が収集した私の秘密が記載されるんですよね?お断りします」
「では内密にしておこう。表向き、きみは社長室付きの情報管理室所属ということにする。だがしかしその実態は!業界と我が社の救世主として世に放たれた最後の刺客、文芸部部長Kだ!」
「なんでそんなノリノリなんです?」
「儂もヒーロー物とか好きだからな。それにしてもKじゃつまらんな、なにかペンネームを付けてやろう。なあに遠慮するな、餞別だ」
「いりません。遠慮もしてません」
「そうさな……」
「聞いちゃいない」
「よし、企業内事業ということで「K-enterprise」にしよう!」
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