弄られ
青原支部受付脇にある待合室、昇太郎は真上に窓があるロビーチェアに座り、夜の月明かりがその背中に燦々と降り注いでいた。
(そうだ…所詮俺はポッと出の新人隊員。
美月さんとは仲は深まったとはいえ深まった仲は数ヶ月くらいで出来上がったもの。
美月さんは16歳からここに来て色々な人と付き合ってきた。
その中には俺以上に長く付き合い、そして仲も深いだろう。
それが頭に入ってなくて自分だけが美月さんと仲が良いなんて自惚れるにも程がある。
必要以上に浮かれていたんだな。)
「はぁ…。」
昇太郎は自身の浅はかで自惚れた考えに大きい溜め息を吐いた。
だが、その数秒後に自身の右頬に冷たい何かが触れた。
「うぎゃあっ!」
「ちょっと…大袈裟すぎない?
そんなに驚く事?」
「いきなり何するんで…って、美月さん!?」
右の方を向くと冷たいミルクティーを手に持った美月がいた。
「後ろからなら兎も角、横から来てるのに気付かないなんて周辺視野が機能してないんじゃない?」
「…夜だから周りがあまり見えないんですよ…。」
「あらそう?
後ろからそんなに月光が差してるのに?」
「………何ですか!?
俺を虐めにきたんですか!?」
「ええそうよ。」
「えぇ!?
…マジですか…。」
美月の衝撃的なカミングアウトに上半身が脱力したようにガクッと項垂れる。
それを見た美月は満足したような得意げな表情を見せる。
「私をあの一言多くて上司らしくない態度な支部長の所に1人にさせた罰よ。
私に弄られたくないならもう二度とあんな事はしないことね。」
「はい、すみませんでした…。」
「今更だけど、このミルクティー、あなたにあげるわ。」
「本当に今更ですね。
でも、何でミルクティーなんですか?」
「私がミルクティー好きだからよ。
コーヒーは苦くて嫌だし、ココアは甘味もあるけど苦味も少なからずあるから出されれば飲むけど好んでは飲まないわ。
そうなると最終的にミルクティーに落ち着くのよ。」
「そうなんですね。
てっきり、コーヒーなのかと思ってました。」
「嫌よ、コーヒーなんて絶対飲まないわ。
何、昇太郎はコーヒーが好きなの?
期待してた感じ?
だったらそこに行って買い直してくるけど…。」
そう言いながら美月は待合室内の自販機に行く為に立ちあがろうとしたが…
「あぁ、いいですいいです!
俺もコーヒーは苦くて飲めないんでこのミルクティーで十分有り難いです!」
昇太郎が慌てながら全力で美月を引き止めた。
「ふふ…何よ、私と同じじゃない。
そんな変な言い回ししてると誤解されるわよ?」
「………。」
不意に見せた美月の自然な微笑みに昇太郎は思わず顔を背けた。
(くそ…可愛い…可愛すぎるんだ!
だからこそ、余計に彼女の一番になりたい…!
だが、ここは一旦我慢だ!)
昇太郎は高鳴る鼓動を落ち着かせて冷静になった。
隣を見ると、いつの間にかミルクティーのプルタブを開けて美味しそうにミルクティーを飲む美月がいた。
それを見た昇太郎は一先ず何気ない会話をしようと美月に声をかけた。
「そういえば、支部長との話は終わったんですか?」
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