雑木林
洋前にあるとある森林地帯。
ここは森林地帯とはいうが実際は
このいかにも人気が少ない所で尾上の依頼にあった妖魔集団を探して殲滅するべく、美月と昇太郎の2人は隈なく探していた。
この広大な雑木林の中、2人1組で探すのは非常に時間の浪費である為、2人は効率重視でバラバラで探す事になった。
美月に関しては2人きりを避ける為の意味でもバラバラに探す事に賛成していた。
そんな中、未だにこの仕事内容に納得がいっていない昇太郎がブツブツと文句を言いながら雑木林の中を歩いていた。
「こんな広い広い森林の中で妖魔の集団を見つけるなんて、時間の無駄すぎる…。
いやいやいや、別に探す事に関しては何も文句はないんだが、やり方はもう少し考えようぜ?
もう少し隊員動員してさ、やった方がさ、絶対効率良いに決まってるよ。
俺が青原支部に来て約半月で未だに尾上支部長とやらに会った事ないけど、何考えてんだよ…。」
昇太郎は頭をボリボリ掻き苛々しながら、引き続き妖魔集団の探索に勤しんだ---
一方、別の箇所で探索をしている美月は別行動する前と打って変わり、とても落ち着いた表情をしていた。
「そうよ、石金の美月。
別行動という手があったから、そこまで焦る必要はないじゃない。
いつも通りの態度で仕事をすればいいのよ。
さぁ、そうと決まれば片っ端から探して妖魔の集団を早く殲滅しないとね。
それにしても何なのよ、あの態度は---」
「うへ…。
じゃあ、このめちゃくちゃ広い森林地帯から、そんな『大』でもない集団を何の手がかりもないままに見つけ出せって事ですか?」
「…マジですか…---」
「溜め息しか吐かないような顔して…。
私が隣にいる事を忘れてるのかしら。
私だけこんなドキドキしてるなんて…フェアじゃないし、腹立つわ。
でも、今は気持ちを切り替えて仕事仕事。
さっさと倒して支部に帰って報告に上がろう。」
美月は自身の事を全く意識していない昇太郎の憎らしい顔を思い浮かべ小言を吐きつつも妖魔集団の探索に勤しんだ---
また一方、昇太郎の方では探索の為、歩いていたが突然止まり、その場で腹を押さえた。
そして数秒後、とてつもなく情けない大きな音を立てた。
「うぐぅ…腹減ったぁあ…。」
昇太郎から鳴った腹の虫は誰の耳に留まる事なく、そこら中に立ち並ぶ雑木林のさざめきによってかき消えた。
昇太郎は美月から聞いた仕事内容が彼にとってあまりにも怠く、モチベーション右肩下がりな内容だった為、この日の早朝、ベッドから起き上がるのが困難だったようだ。
そして、寝坊した昇太郎はまともに朝食も食べずに洋前の待ち合わせ場所で美月と落ち合ったのだ。
何も食べていない昇太郎にとって、この広大な雑木林の中を神経を研ぎ澄ませつつ、歩き詰めで探すのは非常にエネルギーを消耗する作業だった。
そして、この雑木林の緑とも体色が似てる妖魔なので見つけにくさに拍車をかけている。
今の昇太郎には一刻も早く、この先の作業を続ける為のエネルギーが必要だった。
「ここって、確か…岩叢山の麓の森林地帯なんだろう?
だったら、何か食べられそうな野生動物とかいねえのかよ…。」
そんな一縷の望みを賭けた搾り上げるような声を出してその場に座り込んだ。
すると、その声が山の神に聞こえたのか、昇太郎の近くの茂みで葉擦れの音が聞こえた。
昇太郎は座った状態のまま、視線をその茂みの方へ移す。
そのまま暫く凝視してると茂みから山兎が出てきた。
それを見た昇太郎は目を丸くした。
(あいつ…野生の山兎だ。
グッドタイミングだぜ、おい!
このまま奴を仕留めよう。
そしたら、やっと食事にありつけるぞ!)
昇太郎は脇に差した鞘から刀を抜き、ゆっくりと立ち上がった。
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