僕の小説に、初めて感想をくれた人
浅井誠
プロローグ
大学生である僕、篠井裕也(しのい ゆうや)は、ひょんな事から、小説を書こうと思い立った。
特にこれと言った理由はない。ただ、今年度の単位は既に全て取り終えており、大学に行ってもやる事が無く、暇だからと言う理由で始めようと思ったのだ。
パソコンを立ち上げてweb小説のページを開く。目に入ったのは注目の作品と銘打った様々な作品。異世界物やラブコメ、SFなど、ジャンルは様々だ。
僕はそこまで小説を読む方じゃ無かったが、国語力には自信がある。小、中、高と国語の成績は良かったし、今通っている大学も文系の学部だ。
アカウントを作成し、まずはペンネームだ。まあ、適当に"しのっち"で良いだろう。小学校から今に至るまで仲のいい友達に呼ばれてきたあだ名だ。
次にジャンルを考える。生憎、恋愛経験などは皆無な物で、ラブコメなどは肌に合わない。SFも科学の知識はからっきしなのですぐにボロが出るだろう。…ならばファンタジー物か。ファンタジー小説は読んでこなかったが、ゲームなら沢山した事がある。
特に有名になりたいわけでも無くただの暇つぶしで書くのだ。自分の中のファンタジーをこのweb小説の中に書き殴るのも良いかもしれない。そう思うと気分も楽になったし、設定もスラスラ出てきた。
一通り設定を纏めると、登場人物を考える。やはり自分は男なので男の主人公の方が良いだろう。ヒロインも序盤では出さないつもりだが、話の大筋は大体決まった。
さあ、執筆だ。
最初のプロローグ。大体5000字位は書いただろうか、少々長すぎる気もするが、趣味で書いているのだ。気にしないでおこう。
何時間執筆していたかは分からないが、とにかく出来た。確認したところ、誤字も無さそうだ。最後に"投稿"のボタンをクリックする。少しばかりの興奮と緊張感を感じた。
しかしスッキリとした満足感があり、張っていた肩肘から力が抜ける感じがした。
不意に上を見てみると時計が目に入った。夜も更けている時間だった。それを確認した瞬間、急に眠気が襲って来る。
____とりあえず寝よう。
書き上げた満足感と共に、ベッドに入ると、驚くほどすんなりと眠れた。
翌日、目が覚めると時刻は朝の7時を過ぎていた。学校などは無いので今日ものんびりし放題。
「あ、そういや小説…」
しかし気になる事が一つ。昨日書いた小説だ。少しの高揚感を抱きながらパソコンを立ち上げる。
マイページをクリックすると、何やら通知が来ていた。
"あなたの小説に感想が付きました"
その文字を見て一気に嬉しさが増す。自分の作品を見てくれた人が居た。しかも感想付きだ。
これは自分のファン第1号と言っても良いのでは無いだろうか?
そんなありがたい存在のユーザー名には"チンゲン斎"との文字が書いてあった。
"初めまして。小説読ませていただきました。世界観や設定の綿密さに感服しました。
これからも応援しています!"
ごくごく、ありきたりな感想。だが僕にはそれが嬉しくてたまらない。
光の速さで、感想に返信を送る。なんだかアイドルにでもなったような気分だ。…自分は承認欲求などは無い側の人間だと思っていたが、これは癖になりそうだ。
"ありがとうございます!そう言っていただけると嬉しいです!!これからも執筆頑張るので、応援よろしくお願いします!!"
これが彼女との、最初のコミュニケーションだった。
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