444文字コレクション

伴美砂都

動かないスープ(スープ)

 オフィスには窓辺に白いきれいなラウンジがあるのに、雑然としたデスクに埋もれるようにしてお弁当を開く。そのことが毎日わたしをほんの少し削るような気がしていた。身体も痩せればいいのに、心だけを。


「酢の物っすか?」


 背後から突然言われてひゅっと首が冷えた。二年後輩の関くんは一部の社員からコミュ力おばけと呼ばれており、その呼び名はわたしは嫌いだ。


「わかめスープ、」


 答えた声は掠れた。売店にお菓子を買いに走ってしまうのがこわくて、毎日スープジャーにインスタントのわかめスープとお湯を入れて、ふえるわかめを限界まで入れてくる。見られてしまったと思うと苦しくなった。

けれど関くんは驚きもためらいもしない顔で、あーなるほどっ、と言った。


「動かないスープっすね」

「え」

「親父がたまにスープ作ったんすよね、実家で、具、入れすぎて箸でしか食えないから、動かないスープって言ってたんす、あれうまかったな」


 そう言って関くんは去って行った。わたしはお弁当用の寸足らずの箸で、動かないスープのわかめをそっと口に運んだ。

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