第17話 幻術のインク壺
翌日、ディランはインク壺を使った幻術の魔道具の作製に取り掛かった。エミリーの幻影を作り出し本人の身代わりにすれば、そちらに魅了状態にある男子生徒を惹きつけられるのではと考えたからだ。幻影にどれだけ引きつけられるかは未知数だが、無いよりはいいだろう。結界魔法も込めておけば、触られて偽物だと発覚することもない。
まずは、雑貨屋で買った女の子に可愛いと評判だというインク壺を洗浄し、得意魔法である結界魔法を施した。これは前日と同じ方法だ。
ここまでは簡単だが、幻術はディランが普段使わない魔法なので、作製の難易度が上がる。ディランは最初に洋館の地下にある書庫から幻術関連の本を探し出した。
隠蔽を施したときには勝手にゴボウに浮かび上がっていた魔法陣だが、今回は自分で紙に書かなければならない。
(現れる幻術はエミリーに限定するとして、髪を媒介にする方法があったはずなんだけど……)
ディランは記憶を頼りにページをめくる。
魔法はやりたいことを思い浮かべれば発現する。得意な魔法の場合は、魔道具にするときにも同様にすればいい。しかし、そうでない場合は、同じ魔道具を作った先人の魔法陣を探し出し、魔法を使う際の道標にするのだ。そうすれば、魔力は余分に消耗するが、作り出すことが可能になる。
(あった!)
目的のページを見つけて、ディランはホッとする。使用する髪の量も切ってもらったもので足りそうだ。
ディランは専用の紙に専用のインクで本にのっている魔法陣を書き写す。同じ物を十数枚作って乾かした。
魔法陣の用意が済むと、材料を机の上に並べる。
高度な魔法や苦手な魔法を魔道具にする場合は、その魔法に相性の良い宝石を使って相性の良い植物を媒介にしなければならない。
今回は幻術全般に用いられる真っ赤なガーネットとトマト、赤パプリカ、赤とうがらしを用意した。
このように先人が作って記録してくれていれば良いが、ない場合は魔法自体の開発をしたり、魔法と相性の良い宝石や植物を探すところから始めることになる。魔道具研究をする者の中には、目的の魔法と相性の良い宝石を探して旅に出る者までいる。
(始めるか……)
ディランは結界を施してあるインク壺の蓋を開け、エミリーの髪とガーネットを中に入れる。トマトにクルクルと魔法陣を書いた紙を巻き付け、あとは他の魔道具と同様、完成品をイメージしながら魔力を送り込んでいく。
「ウグッ……」
ディランは魔力の消耗が激しすぎて、思わず歯を食いしばる。送り込むというより吸い込まれるように魔力が取られていく。
ディランは休憩を挟みつつ、なんとか作業を続け、完成とともに寝落ちした。
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