第35話 交差する気持ち
翌日。
早速、準備に取り掛かる。
まずは討伐班の編成だ。
昨日の打ち合わせから竜史郎さんをリーダーに、香那恵さんと彩花、有栖と僕が組まれることで決定している。
僕は戦力外だが、
勿論、その事を知っているのは信頼のおける仲間内だけの話である。
「――姫宮も行くのか? そんなごっつい拳銃を二丁も武装して……」
美術室で装備を整えている中、遠くで眺めていた渡辺が有栖に声を掛けてきた。
「……うん。そうだけど、どうして?」
「いやぁ、姫宮が新体操部のエースで身体能力が高いのは知っているけど戦うイメージがなくてよぉ。ましてやあんなバケモノだろ……それに拳銃なんて扱ったことあんのか?」
事情を知らない渡辺が懸念するのも無理はない。
まさか学園三大美少女と称えられた彼女が、今じゃプロの傭兵ですら舌を巻く「二丁拳銃使い」とは知る由もないからだ。
「戦わないと大切な人を守れないから……それに拳銃はミユキくんと竜史郎さんに教えてもらっているから大丈夫だよ」
有栖はニコッと天使の微笑を浮かべる。
渡辺は頬を染めて照れつつ、視線をずらしたかと思うと、何故か僕を睨みつけてきた。
やっぱり、僕はこいつに嫌われているようだ。
まぁ、今始まったことじゃないけどね……。
あれから夜、生徒会から『生徒会派』の生徒達に向けて、明日に行う地下室の掃討作戦が説明する。
そこで生徒会長の西園寺先輩から、
当番制でなく任意という形での呼びかけである。
参加する際は、竜史郎さんが銃を貸して撃ち方を教えると説明した。
生徒達の大半は、モデルガンだと思っていたようで「マジかよ……」と驚きの声を上げる。
だけど、しばらく誰も参加の意思を示す者はいなかった。
てっきり、渡辺か平塚辺りが調子に乗って手上げするかと思ったがそれも無い。
これまでの経緯から、奴らなりに危険を察知して「遊びじゃない」と理解しているのだろう。
別に渡辺と平塚が憶病者ってわけじゃない。
これが年相応の反応であり、当たり前の姿勢なんだ。
結局、二人の生徒が挙手し、討伐班が追加された。
その一人は何故かやる気満々の生徒会長である『西園寺
もう一人は学園三大美少女の一年生、『城田 琴葉』だ。
「城田さんは大丈夫なの? 別に強制じゃないんだからね?」
「はい、夜崎先輩。私達の物資調達なのに、生徒会長と皆さんだけに任せるのも何か違うと思いまして……それに銃の撃ち方は昨夜、久遠さんに教えてもらったので問題ありません」
城田は言いながら、以前、暴力団の事務所から奪った
細かいストック調整が可能であり、女性から大柄な男性に至るまで構えやすい特徴がある。
また米軍で正式採用されるだけに、オプションパーツが豊富で色々なカスタマイズが可能だ。
「無理はしなくていい。自分の身を守ることに撤してくれ」
「はい、ありがとうございます」
竜史郎さんには素直なイケメン好きの城田。
まぁ、あれから僕への態度も変わったし、他の生徒が尻込みする中で自分から率先して手上げするなんて見た目の割には勇敢だと思うけどね。
「……ついに、この時が来たか。うふ……」
もう一人の学園三大美少女であり、生徒会長の西園寺先輩は銃を握りしめて、何かぶつぶつと呟いている。
さっきから、ずっとこんな感じだ。
普段、凛として引き締まっている才女なのに、とろ~んと恍惚の微笑を浮かべている。
何故か息遣いが荒く興奮しているようにも見える。
ちなみに彼女が握っているのは、自ら選んだ
そのコンパクトで個性的なフォルムは数多くのドラマや映画などでも活躍している名銃ともいえる。
「西園寺生徒会長は銃の扱いは大丈夫ですか? 僕で良かったら教えますけど……?」
「安心したまえ、夜崎君。ハワイで父に教わったことがある」
え!? まさかのハワイ万能説!?
流石、セレブだ。侮れない。
「ハワイはそういう国だとして、どうしていちいち父親が出てくるのかな~? インストラクターとかいないわけ?」
彩花は「そこじゃねぇだろ」的な、微妙な疑問を投げかけている。
きっと、いるだろうけど日本じゃ「親父」に教えてもらうのがポイントなんだよ。
「少年はこれを持て――」
竜史郎さんは、ある銃を僕に渡してくる。
長い銃身でスタイリッシュな見栄えが特徴でるボトルアクション式ライフル。
――M24 狙撃ライフルだ。
「どうして、これを僕に? 地下の
「どうせ、
竜史郎さんに問われ、僕は素直に頷く。
きっと、この身体のことを言っているのだろう。
下手をすれば
確かに今のままじゃ、有栖に守られてばかりだからな。
直接は無理でも、スコープ越しなら案外……ってこともあるかもしれない。
幸い、ネトゲの『FPS』でも狙撃は僕の得意分野だったし、撃ち方のコツはわかっている。
後は実戦で身につけるのみだ。
僕は『M24狙撃ライフル』に
そして偵察用のドローンとノートパソコンをアタッシュケースに入れて持って行くことにする。
その姿を離れた場所から、幼馴染みである『木島 凛々子』がじっと見つめてくる。
「……どうしたの、凛々子?」
「別に……随分と変わったなって。前は喧嘩も出来なかったのに」
「今だって出来ないよ……でも出来るように頑張らないと……こんな時だからね」
「そっ、頑張ってね」
「……ありがとう」
なんだろう?
しばらくぶりに、まともに会話した気がする。
まぁ、言われなくてもだけど……。
懐かしく、ちょっとだけ嬉しい気持ちが芽生える。
恋愛感情は別として、凛々子は友達というか、もう一人の妹的な存在だからな。
昔は酷い目にもあったけど、幼馴染みとしての情くらいあるのだろう。
「――ミユキくん。私のレッグホルスター、緩んでないかなぁ?」
有栖が割り込む形で尋ねてきた。
おまけに、チラっと白い太腿を見せてくる。
その仕草と魅惑のチラリズムに、僕は心臓がドキっと一気に跳ね上がった。
なんか、随分と大胆じゃありません!?
「ちょい~、姫先輩! 今の狙っているでしょ!? 清純キャラなのに随分とあざといねぇ……いいよ~だ! じゃあ、センパイ、あたしのシャベルのグリップも固定されているか見てよね!」
彩花が難癖をつけてくる。
別に見てもいいけど、そんなの僕にわかるわけがない。
「有栖ちゃん、私が見てあげるから年頃の男の子にそういうことお願いしちゃ駄目よ」
「は、はい、香那恵さん……ごめんね、ミユキくん」
香那恵さんによる大人の対応で、有栖はハッと気づき謝ってきた。
どうやら無意識でのお願いだったようだ。
ホッとしつつも、少し惜しむ自分がいるのが情けない。
「チッ……姫宮が」
凛々子は誰にも聞こえない声で呟き舌打ちをした。
なんだか僕の知らないところで、女子達の何らかの感情が交差しているような気がする。
だけど考えるのは後にしよう。
まずは食糧と物資の確保を優先しなければならない。
そのためには地下室の貯蔵庫で徘徊する、
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