第22話 モテ期到来と陰キャの過去
「にしし~。やっぱぁ、あたしがいないと駄目みたいだね~、セ・ン・パ・イ♪」
「どうして……一人で行動するって言ってたんじゃ?」
「色々考えてね~。このまま一人で突っ走るより、やっぱセンパイ達と行動した方が長生き出来るっしょ~? それに日本で、んなごっつい銃器持ち歩いてんの、自衛隊かヤクザかリュウさんくらいしょ?」
確かにそーだ。
僕も竜史郎さんがいなきゃ、感染しないとはいえ、とっくの前に食い殺されていると思う。
彩花は悪戯っ子のように真っ白い前歯を見せて笑みを浮かべる。
不意に僕の腕に抱きつくと「それに~」と切り出してきた。
「あたし、センパイのこと気になっちゃって……ね」
「「え!?」」
僕だけじゃなく、有栖も声を荒げて聞き返した。
「さ、彩花ちゃん……それってどういう意味?」
「べ~つ~に~。ヒメ先輩もいくらポイント高いからって前を向かなきゃ、いつか奪われるって話ぃ~」
「わ、私は別に……そのぅ」
有栖は俯き気まずそうに視線を逸らす。
なんの話をしているんだ?
女子トークなんだろうけど、いまいち内容がわからない。
「よぉ、シノブ。少年を助けてくれて感謝するぞ。これからもよろしく頼む」
「うぃす、リュウさん。その代わり、あたしの協力もしてよね~」
「協力? なんのだ?」
「青鬼を殺す協力だよ。特に、あたしと同じ制服を着た聖林工業の……
「わかった約束しよう。だがその前に俺にはやるべき『目的』がある。そのついでで良ければ協力するぜ」
「あんがと~、交渉成立だね~、にしし♪」
彩花は一瞬だけ厳しい表情を見せながらも、再びJKギャルに戻った。
そういえば出会った時から、自分と同じ『青鬼』となった聖林工業の生徒を探している節がある。
彼女にとって、どのような存在かまではわからないけど、その
けど、彩花が仲間に加わってくれると頼もしく感じる。
場も明るくなるしな。
僕はとても嬉しく思えた。
「……彩花ちゃん、いつまで弥之くんの腕に抱きついているのかなぁ? まだ高校生でしょ? お姉さん、早いと思うんだけどねぇ」
香那恵さんが癒し系の微笑みを浮かべながら指摘してくる。
目は一切笑っていないけど。
言われた僕も今更ながら恥ずかしくなる。
考えてみれば、妹以外の女子とこうして気安く触れ合った経験はなかった。
「ふ~ん、カナネェさんって年下好みなんだね……まぁ、あたしは上等だけどね」
「わ、私はそういう意味で言っているわけじゃ……み、弥之くんはそのぅ、特別なのよ」
僕が香那恵さんにとって特別?
一体どういう意味だ?
そういえば、僕が笠間入院した時から優しかったよな。
初めは担当看護師の職務としてだと思っていたけど、僕が行方不明になってからも、紛争地にいる竜史郎に相談するくらい心配してくれたようだし……。
ひょっとして、香那恵さんに気に入られているのか?
まぁ、どんな理由だろうと、こんな綺麗な女性に想われているだけでも男として光栄だよな。
「終末世界でモテ期到来だな、少年。羨ましいぜ」
竜史郎はキャスケットを被り直し、どうでも良さそうな口調で言ってくる。
この人の方が僕なんかより、余程精悍なイケメンなのに彼女はいないのだろうか?
当然だけど、僕には傭兵の事情がよくわからない。
そもそも竜史郎さんは日本人なのに、どうして傭兵になったのだろう?
思い当たる節といえば、『西園寺
西園寺財閥の総帥にて、生徒会長である
この人へ「借りを返す」ために、密航してまで日本に戻って来たと言う。
どのような関係かまでは話してくれないけど……。
「彩花ちゃん、もうわかったからミユキくんから離れてよぉ!」
「だったら、ヒメ先輩も抱きついたらどうです~? センパイの片腕は空いてるっすよ~ん♪」
「えっ、ええ!? だ、駄目だよ、私なんかじゃ……きっと、ミユキくんの迷惑になるから……」
いえ、全くもってそんなことございません。
逆に憧れの有栖に抱きつかれてしまった日にはドキドキMAXで心臓が破裂してしまうかもしれない。
「相変わらず、ヒメ先輩はネガティブっすね~。んじゃ、カナネェさんは?」
「わ、私も結構です! 彩花ちゃんが離れなさい! 弥之が困っているでしょ!?」
よく見たら、年上の二人が年下の金髪ギャルに翻弄されている。
彩花、恐るべしだな。
こういう場合、僕はどうリアクションしたらいいのだろう?
やはり年上の先輩として、彩花を注意し窘めるべきか……。
けどぶっちゃけ、可愛い女子に密着され慕われて超嬉しいし、柔らかくていい香りだし。
今後、一生あり得ない展開かもしれないし。
きっとイジられ目的で、今だけのモテ期だろうし。
ここはお地蔵さんとなって、ささやかな青春を満喫しよう。
まるで気まぐれの猫みたいな彩花を仲間に加え、僕達は母校である『美ヵ月学園』へと向かった。
~姫宮 有栖side
ようやく、彩花ちゃんはミユキくんから離れてくれる。
ミユキくんは困った表情を浮かべるも、何も言わずに私達のやり取りを見守っていた。
きっと場の空気を壊さないように配慮してくれたと思う。
相変わらず優しいなぁ。
ミユキくんはいつもそうだった――。
クラスでどことなく浮いていた彼。
いつも世の中を斜めに構えて見ているようで、一年生の頃から私はミユキくんが気になっていた。
だから隣の席になった時、声を掛けるように心掛けた。
私が言葉を投げかけると、机の上に突っ伏している彼は顔を上げ、戸惑いながら表情を緩めて返事をしてくれる。
その反応が少し嬉しかった。
私が声を掛けることで、クラスの皆の垣根が取れ、彼が輪の中に入れるようになればと思えたから。
勿論、私の自己満足であり傲慢な我がままだ。
実際、ミユキくんにとって余計なお世話だったかもしれない……。
でも、後々彼の口から聞いた言葉でとても救われたと思う。
本当にミユキくんは優しい。
そして勇敢な人だと改めて気づいた。
今更すぎて自分が嫌になるほど……。
当時の私には彼氏がいた。
笠間
同じクラスの男子生徒で、いつでも皆の中心にいて輝いていた人。
私は中学から彼のことを知っているけど、『凄い男子』っという程度しか見てなかった。
そもそも誰かを好きになり、付き合いたいとか思ったことがなかったから……。
けど高校一年生の時に、ジュンくんから告白を受け付き合うようになる。
その時は嬉しかった。
毎日が幸せで、ジュンくんの事しか考えていなかった。
そして毎日が幸せだった。
私の生活はジュンくんを中心にして回っていたようなもの。
一年以上も付き合うと、当然ジュンくんは恋人として私を求めてくる。
嫌われたくないと思いながらも最後だけは頑なに許さなかった。
何故かそうなる前に、必ず彼のことが過ってしまうから……。
――夜崎
当時の私は彼を異性として好きだったのかわからない。
けど私は知っている。
ミユキくんは不器用だけど、とても深く優しい人。
中学の頃、彼と幼馴染みの「木嶋
あんな彼女を許し、自分から罪を被ったミユキくん……。
今思えば、それが原因でミユキくんは自ら周囲と距離を置くようになったのかもしれない。
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