第18話 拳銃使いの天使
姫宮 有栖は普通の女子高生だ。
当然、拳銃なんて撃ったことはない。
あくまで、にわか知識の僕が撃ち方を教えた程度だ。
だがどうだろう……。
あの堂々と
まるで竜史郎さんのような、歴戦のプロ顔負けの貫禄じゃないか?
僕が驚愕している中、残り4体となった
奴らも恐怖って概念と知性が無く、いくら他の連中が殺されようと動じることはない。
ぶわっ
不意に、僕の頭上を何かが飛び越えた。
それは制服のスカートを靡かせた、有栖だ。
僕に近づいてくる
そのまま顔面ごと頭部を押し潰した。
――ドォン! ドォン!
さらに右手に握られたシルバーフレームの
――ドォン!
最後に両腕を交差する形で、左手で構えた
それは異色の二丁拳銃だ――。
ベレッタM92も各国の軍隊で採用されたほどの名銃だが、素人の女子高生が片手で撃てるような代物ではない。
だけど、有栖は難なく使いこなしている。
しかも、僕の頭上をいとも簡単に飛び越えていたよな?
チラッとだけ白い何かが見えたような……ごほん、そうじゃない!
いくら新体操部のエースといっても助走をつけずに可能なのか?
それに
そう、人間離れするほどの……。
「――ミユキくん、怪我なぁい?」
有栖は二丁の拳銃を握りしめたまま、真っ先に僕の安否を気遣ってくれる。
「う、うん……見ての通り無傷だよ。でも、有栖さん……今の凄かったね?」
「え? うん、ミユキくんが危ないと思ったら無我夢中で……こういう場合、何て言ったっけ?」
ん? 火事場の馬鹿力ってか?
でも何か違うような気もするぞ。
有栖自身は、自分がどれだけ凄い戦いをしたのか理解してないのかな?
それに彼女だけじゃない。
篠生 彩花も凄い反射神経と身体能力を見せていた。
今だってそうだ。
長年傭兵として戦場にいた竜史郎さんと居合術を学んだ香那恵さんと引けを取らない、いや身体能力だけなら、それ以上の戦いぶりを見せている。
それに気のせいか?
戦闘中、二人の瞳孔がずっと赤く光っていたようにも見えた。
有栖と彩花――。
二人の身に何が起こっているんだ?
「――少年! このまま戦いを続けても奴らは音と臭いに誘われて次々と湧いて出てくる! このままだと、また弾切れを起こし兼ねない! 正面からの突破を諦め、裏口から脱出するぞ! 調達したブツを持って行けよ! 嬢さんもだ!」
竜史郎さんは後退しながら指示を送ってきた。
いつの間にか正面側の出入り口には、大勢の『青鬼』が群がっている。
香那恵さんは刀を振るいながら、両肩を上下に揺らすほど息を切らしていた。
彩花もシャベルを回収しており、香那恵さんの背中を守るような戦いぶりを見せている。
この子はまだ余裕がありそうだ。
どの道これ以上、危険を冒してまで戦いを続ける理由はない。
やはり、どんなに武装を整えても数の暴力には勝てないものだ。
特に夜の
こうして幾つか疑念を残して、僕は家電量販店の裏口から脱出した。
――現在。
薄暗い部屋の中、僕はドローンを操縦して操作方法を覚えつつ、パソコンの画面でも映像が見られるよう調整する。
有栖は僕の傍で、ずっと作業を見守っていた。
彼女がこういうのに興味があるのかわからないけど、何故かじぃっと見つめてくるので緊張して胸が高鳴ってしまう。
学園でも誰かに注目を浴びることなんてなかったからな。
ましてや、ずっと憧れていた片想いの女子だ。
「そうそう少年。自分の身に起こったこと、他の誰にも絶対に話すんじゃないぞ。無闇に『能力』も見せるなよ」
食事を終えた竜史郎さんが、ふと言ってきた。
「僕の身に起こったこと? 能力って?」
「少年が笠間病院で一カ月の間、監禁され身体がいじられているかもしれないってことだ。それと少年はウイルスに感染しないこと。さらに噛んだ
「そうですね。きっと余計なトラブルを招きかねないですから……でも、僕の身体が
「おいおい、まさか人類の救世主にでもなろうってか? 少年、その発想はまだ早いぞ。全貌が明らかになり、信用できる者達の協力の下で安全に行うべきだろう……でないと少年は
「人間に?」
「そうだ。一部の人間はおぞましく闇と欲に塗れた側面がある……私欲のため少年を利用する者や我先にと少年の血液や肉体を奪う連中も増えてくるに違いない。実例を挙げると、皮膚の色が周囲と違うだけで、儀式目的で幼い子供の腕や足を大人達が切り落とし殺してしまうこともあるくらいだ。特に今の秩序が崩壊した世界では、倫理に反して何をしてくるかわからない輩が多いだろう」
竜史郎さんの言っている意味はよくわかる。
人間には色々な欲深い連中が大勢いるからな。
僕の身近だってそうだ。
常に学年のカースト一位で神に愛されていたような男だと思っていた『笠間 潤輝』が、実は付き合っている彼女を囮にして、自分だけ逃げ出してしまうようなクズ野郎であったこと。
あれほど仲の良かった幼馴染みの凛々子だって、陰キャぼっちである僕を見限り離れて渡辺と付き合うようになった。
他の連中だって、表面上は仲が良い癖に腹の中じゃ互いを罵り合っているような奴ばかり。
陰キャぼっちの僕は客観的な視点で、特にそういうクラス内の人間関係がよく見えていたと思う。
だからこそ、必要以上に交わるのを避けていたのかもしれない。
したがって自分を守るためにも、有耶無耶な部分もある今の時点じゃ秘密にしておくのが無難なのは確かだ。
「――誰にも、ミユキくんに手を出させない……私が守るからね」
有栖は真剣な眼差しを向け、強い意志を込めて呟いている。
彼女からの思わず言葉に、僕は耳を疑い振り向く。
超至近距離に有栖の綺麗な顔が視界いっぱいにある。
実は唇が触れるほど、お互いに接近していることに気づいた。
あまりにも不意な事態に、僕は後ろへ下がり距離を置いてしまう。
嬉しさと恥ずかしさが入り混じり、顔中が火照り赤く染まっていく。
「有栖さん……それって、どういう意味?」
僕の問いに、有栖は自分でも何を言ってしまったのか理解してない様子で口元を押える。
一瞬だけ俯いて見せるも、決意したかのような上目遣いで僕を見つめてきた。
「わ、私ね。ミユキくんに救われて心から感謝しているの……さっきの戦いも、必死で私を守ろうとしてくれて嬉しかったよ。だから、私も戦う決心をしたの。私だって、ミユキくんのこと守ってあげたいから……」
有栖は手を組みながら自分の想いを打ち明けてくれる。
その言葉に、僕は目頭が熱くなり涙が込み上げてきた。
守ってあげたい女子から、逆に守ってあげると言われて少し複雑な心境だけど、純粋な優しさが心に染み渡るように伝わってくる。
世界、いや身近にもまだこういう天使のような子だっているんだ。
だから僕は警戒しつつも人間その者を見限るような真似はしない。
この子が傍に居てくれる限り、僕は自分を見失うことはないだろう。
そして心から、有栖を好きになって良かったと思った。
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