第17話 突如の変貌




「ふ~ん。お兄さん、傭兵さんっすかぁ? 失言さーせんした~」


「もういい、済んだ話だ。だが二度とオジサンっと呼ぶなよ。微妙な年頃だからな」


 とある無人の民家にて。


 野宿するわけにもいかず、失礼ながらも勝手にお邪魔していた。


 彩花と竜史郎さんは打ち解け合い、コンビニで失敬したカップラーメンをすすっている。

 てか職業「傭兵」と聞いて、さらりと流している彩花の神経を疑ってしまう。



 あれから――


 僕達は予定通り、余った銃器類を公園に埋めてきた。


 しかし結局、夜になってしまったので、こうして一晩泊まることにする。


 夜は感染者オーガ達が活発に動き、日中よりも遭遇しやすいので極力控えるためだ。


 目的地の美ヶ月学園まで、残りたった数キロしかないのに、いつになったら辿り着くことやら……。



「ミユキくん、さっきから何しているの?」


 作業中の僕に有栖が綺麗な顔を近づけてくる。

 至近距離すぎて優しい吐息が頬に当たり、思わずドキっとしてしまう。


「さっき電気屋で調達した『ドローン』と『ノートパソコン』の調整だよ。明日の偵察用に使えればと思ってね……学園もどうなっているかわからないし」


「そうだね……見捨てて逃げ出した私が言うのも変だけど、みんな無事だといいね」


 有栖は切なそうに淡く微笑を浮かべる。

 黙って学園を抜け出した彼女としては、きっとみんなに会いづらいだろう。


 元彼である笠間を信じたばかりに……。

 

 まぁ、そう言う僕も、クラスの陰キャぼっちだから大した思い入れもないんだけどね。


 ああ、一人だけ気になる奴がいたっけ。


 ――木嶋きじま凛々子りりこ、僕の幼馴染。


 有栖の話だと、彼氏である渡辺達と一緒に学園で籠っているとか。

 僕が会ってどうなるってわけじゃないけど、幼馴染として生きていて良かったと思うべきだよな。

 

 そう言えば……。


「有栖さん、あれから身体なんともない?」


「ん? 別になんともないよ……どうして?」


「いや、何て言うか……電気屋では見事な戦いぶりだったから、そのぅ」


「確かに変だったね。以前は新体操の練習や大会でも、あんなことできなかったのに……人間に戻ってから身軽になったというか、何か力が湧いて強くなった気がするの」


 力が強くなったか……。


 僕から見れば、そのレベルじゃないと思う。


 あの時の有栖は、明らかに人間離れしていた。


 それは彼女だけじゃなく、彩花も言えることだ。






 ――遡ること、家電量販店にて。



 夜も更けて宿を取ることに決めた僕達は、最後にこの店に訪れた。


 理由は先に述べた通り、『ドローンとノートPCの調達』である。

 ちなみに立ち寄るように提案したのは僕だった。


 あの後、彩花も一人で過ごすよりはと今晩だけ僕達と行動を共にすることになる。

彼女は何か別の目的があるようだが。



 そして店の扉を強引に侵入したところ、お約束通り防犯ブザーが店内中に鳴り響いた。



 ヴゥゥゥゥゥ―――――――!



「兄さん。この音うるさいわ……なんとかした方がいいんじゃない?」


 香那恵さんは両耳を押さえて訴えている。


「ほっとけ。それより少年、早いところブツを調達してくれ。そういった類は俺達よりも少年の方が詳しいからな」


 機械音痴疑惑がある竜史郎さんから、エンジニア扱いされる高校生の僕。

 自作PCを組み立てられる程度なんだが……。

 まぁ、家にも趣味でドローンはあったし、その手の操作は慣れているけどね。


 僕は有栖を連れて在庫から、カメラ付きの最新型ドローンとノートPCを箱ごと持ってくる。


 いつもの通り、お金を置いていきたいのだが、二台とも高額商品であり流石にそこまでの持ち合わせはない。

 今回だけは有難く頂戴することにした。


 みんなと合流し、店を出ようとしたところ。


「生臭いね……奴らが近くにいるよ」


 入口前で待機していた、彩花はシャベルの柄を持ち身構える。


「臭い? 私にはよくわからないわ」


 一緒に待機していた香那恵さんは首を傾げる。



「――来る! 後ろから!」


 有栖も何かに反応し叫んだ。


 突如、後方にあるスタッフルームのドアが強引にこじ開けられ、感染者オーガ達が襲い掛かってくる。

 

 真っ青な皮膚をした『青鬼』。


 しかも家電量販店のユニホームを着た6人の男女。

 間違いなく、この店で働いていた元スタッフ達だ。


「すみません! 現金がないんで、カード払いでいいですか!?」


 事実上、万引きして後ろめたい僕は思わずそう言ってしまう。


「センパイ、ウケるっつーの!」


 彩花は鼻で笑いながら、既にシャベルをこちらへと放り投げていた。


 シャベルは勢いよくブーメランのように高速回転して飛来する。

 僕に近づいてきた青鬼の後頭部に刃先が刺さり見事に脳を破壊した。


 わりと僕との距離があるにもかかわらず見事な命中精度、それに反射神経と腕力だ。

 あの小柄で華奢な身体のどこにそんな力が隠されていたのだろう。


「がぁぁああぁぁぁぁ!!!」


 残りの5体の感染者オーガが、こちらに目掛けて襲ってきた。


 僕は腰のホルスターから新しく入手した自動拳銃『SOCOMソーコムMk2』を抜き、銃口を向ける。

 しかし、カタカタと震えてしまい狙いが定まらない。

 戦わなきゃいけない、撃たなきゃいけないのに、心の奥底で恐怖が拭えないでいる。


 竜史郎さんに助けも求めようとチラっと視線を向けて見た。

 彼は店の入口付近から溢れ出てくる、大勢の感染者オーガ達を相手にライフルをぶっ放している。


 どうやら防犯用ブザーの音に誘き寄せられ、前側と後側の挟み撃ちされる形で襲撃を受けてしまったようだ。


 香那恵さんも前側から来る感染者オーガ達を相手に刀を振るっており、彩花は回転式拳銃ニューナンブM60で援護に回っている。


 全員、とても僕を助けてくれる余裕はないようだ。


 つまり、僕と有栖で5体の感染者オーガを相手にしなければならかった。


「――有栖さん、僕の後ろに隠れて!」


 僕は呼び掛けながら拳銃を構え、のろのろと近づく感染者オーガ達を牽制する。

 有栖に近づけさせないよう、距離を保つため後退した。


「……ミユキくん」


 今にも泣きそうな、有栖小さな声が聞こえる。


「大丈夫! 僕が守る! 僕は奴らに噛まれても感染しないから!」


 決して戯言じゃない。根拠を得た上での言葉だ。


 これまでの経過から、僕は多少感染者オーガ噛まれてもウイルス感染しないと判明している。


 しかし、それは初期症状である『黄鬼』に関してのことで、目の前に迫って来る連中は全員『青鬼』だ。

 本当なら噛まれたら、どうなってしまうのか未知数でもある。


 正直、不安がないと言えば嘘だと思う。

 てか怖くて今にも失禁しそうだけど……。


 けど逃げるわけにはいかない!


 有栖だけは守ってみせる!


 僕は笠間とは違う!

 命を懸けて、彼女を守るんだ!


 ひたすら念じ、恐怖を抑え込む。


「うおぉぉぉぉぉっ!!!」


 僕は自動拳銃Mk.23を構え、トリガーに力を込めた。



 刹那



 ――ドォォォン!



 轟音と共に、迫って来る感染者オーガの頭部が吹き飛ぶ。


 両耳にキーンと重い衝撃が走った。


 僕はまだ撃っていない……その直前で誰かが撃ったのだ。


 しかも後ろから……。


 チラリと振り返って見る。



 ――有栖が右腕を掲げ拳銃を構えていた。



 その銃口からは薄っすらと硝煙が昇り、火薬の臭いが漂っている。


 細い腕に華奢な手で握られた無骨な拳銃。

 銀色に輝くシルバーフレーム、4インチの回転式拳銃リボルバーである。


 正式名称――コルト・パイソン357マグナム。


 あの有栖が、あんなごっつい銃を片手で撃った?

 

 威力が高い分、撃った時の衝撃や反動だって相当な筈なのに……。


 つーか、誰よ。

 彼女にあんな銃を渡したの?


 あっ、竜史郎さんだ……。


 確か回転式拳銃リボルバーはオートマチックよりマルファンクション故障が少ないからっていう杜撰ずさんな理由で渡されたんだ。


 しかしどういうことだ?





──────────────────


お読み頂きありがとうございます!


「面白い」「続きが気になる」と思ってもらえましたら、

どうか『★★★』と『フォロー』のご評価をお願いいたします。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る