第37話 散華

「おおおおおおッ‼」


『いいぞ、ユウト!』



 ただの剣で空棲大型種の首を刎ねていくユウト機ザデルージュに並走して、エイト機のフラッドもただの刀で──より鮮やかに──同じことを成していく。エイトのほうが機体性能は下なのに手並みは上。



(悔しいが、さすがだ)



 他のノアザーク所属18機のフラッドもそれぞれチェンソードで大型種と戦い、ユウトとエイトほどではないが善戦している……だが敵は大型種だけではない。



『うわぁぁぁ‼』


「ニッタ少尉‼」



 1機が大型種と交戦中に小型種の群れに取りつかれ、喉元のハッチを骨剣でこじあけられ……ぐったりし、かかとのジェット噴射がとまり、空中から落下を始めた。


 操縦室に侵入されて操縦士が殺された。海棲小型種もやる戦法だが、空棲種には人間と同じ手があるため、より手際が良い。


 これが怖いから事前のレーザー攻撃では小型種を優先して潰したのだが、まだ大量に残っている。想定された事態だが防ぎようがなかった……いや、想定外?



「こいつら操縦士を狙ってる⁉」


『らしいな! ごていねいに‼』



 ユウトとエイトは眼前の敵と戦いながらも広い視野を保っており、それに気づいた。ノアザーク所属機だけでなく他艦所属のフラッドも、やられたのは全員、同じ方法で。


 大型種からの攻撃が操縦室を潰して、というパターンがない。敵は操縦士にとって最も残酷な方法でトドメを刺すことに拘泥している。



「それを舐めプって言うんだ‼」



 ネフィリムの人類への憎悪を感じてゾッとはしたが、好都合。こだわりのせいで敵側の戦闘効率は落ちている。



「ハッチを守るんだ、小型種から!」


『それで他が疎かになってもいい!』



 ユウトとエイトの助言がフラッド各機に共有されていく。それで戦闘効率が上がり……全体的に、空棲種を押しはじめた。



「今だ‼」



 ユウト機はネフィルに向かって飛びだした。空棲種を撃破するより、そのあいだを抜けて奥へと進撃するほうを優先して。



『各機、ユウトを援護しろ‼』



 応‼



 エイト機らノアザーク所属の僚機たちも続いて突進する。ユウト機に近づく敵を撃ち、ユウト機の身代わりとなって撃たれてでも、ユウトがネフィルの許へ辿りつけるように。



『行け、大尉‼』


「フルタ中尉‼」



 そうして1機、また1機と減っていく。ついにはユウト機とエイト機だけになった頃、空棲種の群れを突破して視界が開けた。


 艦隊の射線をよけてきたので、やや見下ろす位置に。ミコトメイミと同じ形の、ネフィルの巨大な顔が、すぐそこに。


 その左眼が、ぎょろっと動いた。


 視線がこちらに。ネフィルの瞳にはレーザー発振機能があり、視線とは射線に等しい。巨大な瞳孔から放たれるレーザーは範囲も広く、この位置では避けられない──







 西方艦隊と南方艦隊がネフィルを撃つ、それぞれ数十発の荷電粒子砲。ネフィルが両艦隊を撃つ、5発ずつの超々レーザー砲。威力も発射間隔も同じながら、数では圧倒的に両艦隊が上。


 しかし、どんどん減っていく。


 ネフィルは両艦隊の攻撃で傷つきながらも死にはしない一方、両艦隊はネフィルの一度の攻撃で5隻ずつ撃墜されていき──


 次々と墜落、爆発炎上。


 乗組員の生存は絶望的。


 攻撃が衰えていく、つまり撃つ艦が減っていく……そして、ついに西方艦隊が全滅した。南方艦隊も、残るはノアザークのみ。


 その艦橋で副長が叫ぶ。



「両翼、前後とも損傷! 被弾ではなく、爆発した僚艦の破片が当たった模様であります! 翼内エンジンは全て無事!」


「でも高度、維持できません‼」



 そう悲鳴を上げた航海長に、艦長が命じる。



「緊急着水! ヴァン湖にだ」


「了解! でも、その前に‼」



 翼から火と黒煙を上げながら徐々に落ちていくノアザークの姿勢を必死に維持しつつ、航海長は操縦桿のトリガーを引いた。







「ギャアアアアア‼」



 ネフィルが左手で左眼を覆って絶叫する。その左眼がレーザーを放ってユウト機とエイト機を撃つ寸前、ノアザークの放った荷電粒子砲に撃たれ、眼球が弾けた。


 助かったユウトはしかし、後方でノアザークが沈みかけていることに気づいた。安否を問おうとしたら、先に向こうから通信が来る。艦長の声が響いた。



『こちらは無事だ! 構わず行け‼』


「了解! ありがとうございます‼」


「アアアアア‼」



 ユウト機はなおも叫んで苦しむネフィルの、開いた大口に飛びこんだ。すると、すぐに奥の喉から下がった口蓋垂が目につく。そこだけ赤くなく、半透明。


 見覚えがある。


 ネフィリムの培養槽。ニューヨークで見たのより大きく、こちらと同じ上下20mほど。中は濁って見えないが──ユウトは直観に従い、剣を振った。



 ザパァッ‼



 口蓋垂の表面が斬れて、傷口から培養液がこぼれだす。それをかきわけてユウト機は内部に侵入し……いた。中心部に、周りから伸びる肉の管に繋がれた、ミコトの体が。


 推理は正しかった、彼女はネフィルの言葉を通訳させられていたのだ、その喉で。ヘルメットがないが、他はさらわれた時フラッドの中で着ていたエクソ・ハーネスのまま。


 苦しげな顔が見える。


 ユウト機は左手で彼女を潰さぬよう優しく握りつつ、右手の剣で管を斬った。やや仰けぞってから機体の喉元のハッチを開き、そこから管を外したミコトを入れる。


 ハーネスのゴーグル内モニターの映像を、機体の頭部カメラからゴーグル付カメラに切りかえる。操縦室の内部が映り、目の前のハッチから落ちてくる彼女を、抱きとめる!



「メイミ! ミコト!」


「ユウト、さん……?」



 目を開いた彼女は、そう呼んだ。



「メイミ、だね?」


「ごめんなさい、ミコトさんじゃなくて」


「怒るよ」


「ごめんなさい……会いたかった‼」


「オレもだよ。しっかり掴まってて」



 抱きついてきたメイミを抱きかえし、ユウトはハッチを閉じ、モニターの設定を戻して、機体を発進させた。


 口蓋垂を出て、機体に腰の魚雷発射管から核ミサイルを手で抜きネフィルの喉へ投げさせてから、口内からも脱出。こうすると、ミサイルの起爆は任意のタイミングで行える。



「離れろ! 核を使うぞ‼」



 近くにいるフラッド各機に呼びかけつつ、自らも全速力でネフィルから離れ──核の影響範囲からの全機の退避を確認!



「起爆‼」



 巨大な火球が3kmの巨体を……


 内側から粉々に、消しとばした。

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