第36話 一撃必殺

 西方艦隊も南方艦隊も、自らに襲いくるネフィリム空棲種の大軍を艦載機のサーヴァス各隊に迎撃させつつ、自らも砲撃する。



「レーザー砲! 全門、用意!」


「レーザー砲! 全門、用意!」


「合点!」



 南方艦隊にいるノアザークの艦橋で、艦長が命令、副長が復唱、答えたのは今度こそ航海長でなく砲雷長だった。その派手好きな漢が手許のタッチパネルを激しく叩いて照準入力していく。


 狙いは前方、ネフィルの


 先ほどまでネフィルの姿を霞ませていた空棲種の大群にトンネルが空いて、艦からはネフィルの巨体が鮮明に見えていた。


 移動を始めた空棲種たちが艦隊に向かいつつ、艦隊とネフィルのあいだの空域からは退避した。先の艦隊からの荷電粒子砲の一斉射で多数、そこにいた個体が死亡したからか。


 それでネフィルまでは攻撃が届かなかったのだが、敵の司令塔たる彼女は我が子らを盾にするのを良しとしなかったらしい。



「照射!」


「照射!」


「照射‼」



 カッ‼ ──ノアザークの艦首で、荷電粒子砲の周辺に並んだ丸窓のようなレーザー砲門たちが一斉に閃光を放った。


 僚艦の空中駆逐艦らも同じ攻撃をし、可視光線ビームの弾幕が空棲種のトンネルのを焼いた。


 トンネルには近づかぬようサーヴァス各隊には命じてある。そこを撃つ分には、空棲種と交戦に入っている彼らを誤射する心配はない。そうして援護しつつ、艦の本命は──



「艦首砲! 目標そのまま!」


「艦首砲! 目標そのまま!」


「了解!」



 答えた航海長が操艦して燃えるトンネルの奥に見えるネフィルに向かって直進させつつ、艦首砲の照準を調整していく──







 一方アララト山の頂では、ネフィルが背中の4枚羽で体を覆い、右手を西、左手を南へと向けた。


 空棲種は大型以上になると眼球と手指にレーザー発振機能が備わる。空棲種の超大型個体であるネフィルも当然そう。


 巨大であること以外は人間のと同じ形の、両手の5本指を別々に動かし、右手で西方艦隊の5隻、左手で南方艦隊の5隻に照準を合わせる。指の発光細胞を活性化させ──



「死ぬがいい、人間ども‼」







 ゴァッ‼



 西方と南方の艦隊からの荷電粒子砲の十字砲火と、ネフィルからの超レーザー砲が同時に放たれた。直後、三方で被弾による爆発が起こる。


 ノアザーク艦橋の窓の外で、僚艦らが炎上しながら高度を落としていく。その様子に戦慄しつつ、どの艦がやられたのか副長が報告する。



「駆逐艦、1、3、4、7、9番、轟沈‼」


「一度でこれか! さすがラスボスだな‼」



 砲雷長の称賛は、やせ我慢。


 ネフィルの放った10条のレーザーは全弾命中し、5隻の空中駆逐艦が撃墜された。こちらの南方艦隊だけでなく西方艦隊でも。


 計10隻。


 身長3kmのネフィルから見れば全長150mの艦など小さな標的だろうに、凄まじい精密射撃。それも10隻を別々に。


 威力も、一発一発が陸棲種のボスクユーサーの超レーザー砲より上で、人類側の荷電粒子砲と互角。質的に荷電粒子砲より威力の劣るレーザーで。それだけ出力が桁違いということ。


 動揺する艦橋要員たちに、艦長が落ちついた声を聞かせる。



「だが、こちらの攻撃も効いている」



 トンネルができて今度は妨げられなかった荷電粒子砲の弾幕も、何発かは狙いが逸れたが、多くがネフィルに直撃していた。


 ネフィルの巨体を覆う4枚羽のあちこちに穴が開き──すぐに塞がる。ネフィリムの万能細胞による再生。だが、そのためには生命力が消費されている。


 たとえ形は修復できても。


 生命力が尽きれば、死ぬ。



「撃ちつづけろ。脳を潰すだの斬首だのの、即死させる方法にこだわる必要はない。奴の命を削りきるのだ」


「了解! で、ですが」



 艦首砲の3射目を準備しながら、航海長が声を上げた。



「中にメイミさんがいたら」


「どこにいるか分からん彼女をさける手段はない。彼女に当てずにネフィルを殺せても転倒時の衝撃で……だが、手を緩める余裕など我らにはない」


「ですよね……」


「我らがメイミさんを殺してしまう前にダイチ大尉が奴の体内に突入してメイミさんを見つけ、救いだせるか。そういう賭けだ」



 カッ‼



 再度ネフィルと撃ちあい。


 また5隻の僚艦が沈んだ。







 南方艦隊とネフィル双方からのビームが行きかうトンネル空域を避けて、空棲種の大軍と激突する数百機のサーヴァス。


 その中でただ1機、黒騎士フラッドではなく白騎士ザデルージュを駆るユウトは、フェイズドアレイ・レーザーで多数の空棲種を斃したのち、接近戦に移行した。


 空棲種が爆発して起こった煙が濃くなって、レーザーにしろメーザーにしろ、ビームの効果が低下してきたから。機体の背中から、ただ巨人サイズに大きいだけの剣を外して両手に構える!



「行くぞ‼」



 敵の前衛へと飛翔、狙いはその内の空棲大型種1匹。こちらと同じ全高20mの有翼の人型へと、勢いを乗せた剣を振りおろす!



 ガキィィィン‼



 剣は、相手が手にした剣に受けとめられた。体内で骨製の剣を作りだし取りだして振るう、空棲種の能力──だが!



「おおッ‼」



 鍔ぜりあいから押しこんだユウト機が、相手の体勢を崩した。ザデルージュはフラッドより重さもパワーも上。対して空棲種は、陸棲種や海棲種よりスリムで軽い。


 ユウトはすかさず、空棲種の首に一閃を見舞った。


 空棲種の首は他種のより細く、斬りやすそうに見えて、違う。他種は全身を硬い甲殻で覆うが、空棲種はほとんど柔らかな素肌。だが首を含めた数ヶ所を覆う甲殻の硬度は、他種より上。



 ズバンッ‼



 他種より刎ねづらい首を、ユウトは刎ねた。隙を作るまでは力ずくでできたが、斬るのは正確に刃を立てる技がなければ力があっても無理。


 以前なら斬れなかった。


 地獄のVR特訓の成果。


 VR感覚で本当に死にかねない苦痛を味わいながら、昨夜には陸棲種の大群を相手にしても全て斬首できるようになった。だが実戦で、実物のネフィリムを斬るのはこれが初。



「斬れる!」



 チェンソードに頼らずに。純粋な剣技で。ネフィリムと戦いつづけて2年、最終局面でようやく、この領域に至った。



「そ・れ・な・らァ‼」



 敵の傍に留まって回転刃を当てつづけるチェンソードと違い、すれちがいざまの一太刀でも屠れる。ユウトは空棲種たちのあいだを翔けぬけ、次々とその首を飛ばしていった。

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