第2話 改良コンニャク

「えっと、ごめんなさいカステラーヌ、あなた一体なんのことを言っているの?」


「お姉さまは改良コンニャクを考案し、それを国内で大々的に生産しておりますわよね? それによってかなりの財も築きました」


「ええ、オーバーハウゼン侯爵家は代々経済をより良くすることで国に尽くすことを是としてきた、商売に長けた上級貴族ですもの。私もその長女として、コンニャクを改良して生産性を大いに引き上げたのよ」


 古来よりコンニャクは万能の健康食として知られている。

 腸内環境を改善し、つらい便秘を癒し、免疫力を向上させ、病にかかりにくくするのだ。


 メルビルはそこに目をつけて、生産性の高いコンニャク芋と、極めて効率的な生産方法を開発したのだった。


 その効果もあって、ここ数年でフライブルク王国全体の医療費は2割ほど削減し、国民の平均寿命も1年長くなっている。


 他国の貴族からも――特に女性たちからの人気が高く、最高の環境で手間暇かけて栽培された特上のA5改良コンニャク芋は、通常の20倍以上の高値で取引されていた。


 メルビルは密かにこれを『コンニャク革命』と名付けていた。

 それはさておき。


「そしてお姉さまはユベリアス王太子殿下にも、健康食だからと言ってコンニャクを食べることを常日頃より勧めておられましたよね?」


「ええ、そうだけど。それがどうしたのかしら? ユベリアス王太子殿下に健康で長生きをしてもらうことが、フライブルク王国にとってプラスになることは間違いないでしょう? 殿下の婚約者として殿下が末永く壮健であらせられるようにと、私は万能の健康食であるコンニャクをお勧めしたのです」


 そうメルビルが理由を説明したところで、


「よくもまぁ抜け抜けと言ったものだな! ボクに長生きしてほしいなどと、よくもペラペラとそんな嘘八百を並べ立てられるものだ!」


 ユベリアス王太子がカステラーヌを押しのけるようにして前に出ると、メルビルを指差しながら糾弾したのだ。


「殿下、私は嘘など申しておりませんわ。殿下のことを思い、婚約者として当然のことをしたまでです」


「なにが当然のことだ! ボクを暗殺して自らが女王となる算段だったということはもう明らかだと言うのに!」


「暗殺ですって? 私が、ユベリアス王太子殿下をですか? そのようなことはありえませんわ」


 感情をコントロールすることに長けた上級貴族の子女たるメルビルであっても、このあまりに突拍子もない発言に対しては、わずかに不快の色を声ににじませてしまっていた。


 ユベリアス王太子殿下の暗殺を企んでいたなどと、濡れ衣もいいところだったからだ。


 誇り高き上級貴族であるオーバーハウゼン侯爵家の長女として、そのような根も葉もない発言は到底許せるものではなかった。


 しかしながら相手が婚約者であり、次期国王でもあるユベリアス王太子ということもあって、メルビルはすぐさま心をコントロールすると怒りを意識の外へとおしやった。


 メルビルはどこに出しても恥ずかしくない淑女であるからして、感情のコントロールなどはお手の物なのだ。


「では聞くが、メルビル。コンニャクで喉を詰まらせて死ぬ人間が年に十件以上も出ているそうだな?」


「それはもちろんコンニャクも食べ物ですので、喉を詰まらせて窒息する可能性はゼロではありませんが――」


「ついに口を割ったな!? やはりボクを暗殺する気だったか!」


「いえあの、あくまで今のは食品に関する一般論で――」


「黙れメルビル! お前は次期国王であるボクにコンニャクを食べさせ、喉を詰まらせて殺し、そして自らがこのフライブルク王国の女王になろうと画策したと、今お前は自らの口で告白したのだぞ!」


 メルビルの説明をかき消すように、ユベリアス王太子が大声でがなり立てるように言った。

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