黒き花は恋を覚える
矢石 九九華
第1話 黒き花は思い出す
いつ頃からか少しずつ思い出し、今日のご飯を食べているときにやっと名前も思い出したのだった。
このことを私は誰にも話さなかった。
子供の戯言だと大人はどうせ信じることはない。
それに、私は誰にも興味を持たれていないのだから。
「早く出ていきたい」
ここは、そう思うほどに私への対応は最悪だった。
いつも埃まみれの部屋に閉じ込められて、食事は最低限。
たまに、食事を出されるのを忘れられてしまうこともある。
私はクラウロッド伯爵家の長女として生まれたはずだった。
でも、私の容姿は父のような金髪も灰色の目も引き継がなかった。
それどころか、母様の水色の髪も青色の目も持っていなかった。
私の容姿は黒い髪に赤い瞳、唯一顔だけは母のようなかわいらしい顔だった。
このことで、母の不貞が疑われた。
母様は周りからの陰口や嫌がらせからのストレスで病気になり、私が一歳になる前に亡くなった。
そして、すぐに新たな継母が屋敷に来たのだった。
数か月もすると弟が生まれた。
その顔は父にそっくりだった。
その頃には私は屋敷の端に追いやられていた。
「ここまでは設定通りね」
子供の私がここまで家庭状況を分かっているのには理由があった。
それは、私が前世で遊んだ「心に咲く白き花」という乙女ゲーの設定によく似ているからだ。
このゲームはシリーズ化され、全六作品もでた。
内容はファンタジーとミステリーが半々ずつのストリーだ。
魔法学園に起る不可解な事件。
それを主人公が攻略対象と解決していくのだ。
ただし、私は設定上に出てくるだけで、立ち絵すら存在しないキャラなのだ。
と、言うのも。第三シリーズの事件の原因が私なのだ。
五歳になると子供は魔法に目覚めるのだが、私の弟は魔力を全く持たなかったのだ。
そこで、私の魔力を弟に渡す為に儀式を行った。
でも、私は儀式に耐えきれず、死んでしまうのだ。
だが、魂は魔力に乗って弟の体に入り込む。
そして、弟の第二の人格として、彼を操り事件を起こすのが真相だ。
彼に自身の両親と婚約者を殺させて、精神を壊し、彼の体を乗っ取る。
「でも、死にたくないし、そんなことをしたくない」
私はまだ魔法が使えないようなので四歳以下だ。
時間はまだある。
その間になんとかしないと。
まずは、私の誕生日がいつなのかを知るために、いつも食事を持ってきてくれる侍女を待つ。
正直に聞いて教えてくれるかわからないが、この人しか私が外の情報を得る方法がない。
……
…………
………………
「こない」
そういえば、昨日の夜から食事をもらってない。
私が儀式に耐えられなかった一つの理由が食事をまともに与えられなかったからだった。
持ってこなくなる理由は今まで持って来た侍女が屋敷を辞めてし待ったことが原因だ。
この侍女が毎日忘れずに持ってきてくれていたが、他の侍女は面倒くさがって持ってきてくれないのだ。
この数日後、死の淵をさまよい、魔力を暴走させて、屋敷を半壊させてしまう。
「つまりはもうすぐ、五歳になる」
死の淵をさまよってまでここにいるものか!
私はその時が来るまで、待った。
食事を当られなくなって三日目。
変化が起きた。
体の奥から何かがこみあげてくる。
それを私は放出する。
すると、部屋中が黒い風に包まれたのだった。
「風の魔法」
貴族の魔法には特徴があり、クラウロッド家には色のついた風の魔法が発現する。
父が赤い風の魔法で、追加で爆破の能力を持つ。
弟は水色で氷の追加能力を持っていた。
「なんだ、母さんは不貞なんて行ってなかったじゃない」
その事実に怒りを覚えた。
ちゃんと確認もせずに母を殺した。
つくづくこの家が嫌いだ。
まだ、余力はある。
私は壁を壊し、外に出る。
痩せ細った体で足も覚束ないが、何とか一歩ずつ歩き出しこの屋敷を出るのだった。
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