太平洋を戦い抜く
第353話 最適解
伊号第14潜水艦は、青森沖15キロ海域で、夜が明けて間もない時間帯に、潜望鏡による周囲の警戒を実施した。
「艦長、どうですか?」
「周囲に艦影はないな、、、、、いや、まて、、、、急速潜行!、敵駆逐艦、正面約2000!」
まさかの事態が起こっていた。
当然、周囲の状況は音響員によって確認されていたが、駆逐艦のスクリュー音は一切入っていなかった。
「やつら、どうしてこんな所に」
「先回りされたんでしょうか?、妙に早いですね」
潜水艦の速度とは言え、敵駆逐艦が14潜の行動を先読みして、先に太平洋側に出ているという事は考えにくいことであった。
なぜなら、今回14潜が取った行動は、潜水艦にとって本来不利となる「海峡突破」を敢えて実施することで、太平洋側には出ないだろうという敵の意表を付いた作戦であったためだ。
敵は単艦、つまり、複数によって網をかけていたのではない、14潜がピンポイントで津軽海峡を突破して、太平洋に出ると、まるで解っていたかの如く行動である。
ましてや、潜水艦に探知されないよう、動力を切って待ちわびる、これは駆逐艦と言えども、かなり勇気の要る行為だ、、、、いや、むしろ、正気とは言い難い。
この時代の艦船は、まだ重油によるボイラーがメインであるため、一度動力を切ってしまえば、再起動には数十分を要する。
「艦長、敵の駆逐艦は、間違いなくベニオンですか?」
北村少佐が、そのあまりに非常識な敵の行動に思わず艦長に詰め寄ってしまうほどであった。
「ベニオンかどうかまでは不明だ、、、何しろ、艦首をこちらに向けていたのだからな」
艦内の一同は、愕然とした表情に陥った。
それは、駆逐艦がベニオンであっても、なくても、それは明確に自艦を評定して攻撃を企図している事を示していた。
「すると、ボイラーは入ったまま、、、、ですか?」
「ああ、そうだ」
ボイラーが入る、、、、それは、重油によりボイラーが回っている状態で、動力のみを切っていたことを示す、つまり、直ぐにでも動く事が出来ると言うことだ。
艦長は、潜望鏡で駆逐艦を発見したときに、明らかな黒い排煙を確認している、つまり、ボイラーに火が入っている証拠だ。
そこまでを直接聞いていた俺は、北村少佐に、思わず意見してしまうのだった。
「北村少佐、私に考えがあります、艦を浮上させてください」
北村少佐も、その場にいた山本艦長も、俺が何を言っているのだという顔で俺を見た。
所詮は陸軍の軍曹、海上戦闘に関しては素人、多分そう思われている。
、、、しかし、どうしてか、これはエラーサイトにいた時からではあるが、何故か俺は戦場において、最適解を出すことに長けていた。
もちろん、海上戦闘など、経験はない、それは異世界でもある、エラーサイトにおいても、海上戦闘は全く経験していないのだから。
「斉藤君、気持ちは有り難いが、ここは海戦のプロに任せてほしい、陸軍の視点では、何も解るまい」
「では、最低限、理由だけでも聞いてはもらえないでしょうか?」
頼む、俺の言う事を聞いてくれれば、この危機は回避できる、俺にはそれが解る。
しかし、北村少佐も山本艦長も、聞く耳を持たなかった。
そこに助け船を出してくれたのは、玲子君だった。
「お父様、どうか、雄介様の作戦を、お聞き頂けないでしょうか?、このお方は、、、、救世主になられるお方です」
!、おいおい、何を言いだすんだ玲子君!
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