第51話 何やってんだ、俺は

 玲子君は、処置室へと緊急搬送された。

 キャサリンが手術用の作業衣に着替えて素早く対処をする。


 、、、、なんなんだ、未来の機材を使っても、玲子君の傷はヤバい状態なのか?

 俺は再び後悔の念に駆られた、俺のせいだ、俺が安易に未来を救おうなどと考えたから、彼女は撃たれたんだ。

 それなのに、彼女は常に俺を守ろうとして、反撃出来ない立場なのに、その身を挺して頑張ってくれたんだ。

 、、、、俺は、彼女がもし死んでしまったら、そんなことばかり考えていた。

 処置室の前の廊下は、妙に静かだった、誰も通らないし、爆撃の音も銃声もない。

 今日一日というこの日のアクロバットのような激変に、心がようやくついて来た気がする。

 今日の俺は、男を通すために、必死で戦おうとしていた。

 しかし、結果はこのザマだ。

 助けるどころか、結局空母が撃沈され、玲子君は重症を負った。


 何やってんだ、俺は


 廊下の床に、俺の涙が落ちて行く、全ては俺の責任、彼女の身に、何かあれば、俺は一体どうしたらいいのだ。

 俺は自分の正直な気持ちに気付いた。

 彼女が美人とか、スタイルがいいとか、そんなんじゃない、純情で真っすぐで、一生懸命な彼女の事が俺は好きなんだ。

 俺は彼女を失う危機に、今接している。


 長い待ち時間が過ぎ、涙も枯れた頃、キャサリンがドアを開けた。


「玲子君!」


「GF、落ち着いてください、まだ処置が終わっただけで、今晩が山になります」


「キャサリン、玲子君は助かるよな。」


「今のところは五分五分と言ったところです、個室を用意しますので、付いてあげてください」


 再び血の気が引いた、処置が済んでいるのに、五分五分の状態、半分の確率で彼女が死んでしまう。

 ああ、俺は本当にバカだった、本当にすまない、玲子君、君は俺を許してくれるだろうか。

 もうそんなことはどうだっていい、君が生きてさえいてくれたら。

 ベッドに横たわる彼女を見て、俺は更に涙腺が緩みそうだった。

 

「キャサリン、玲子君には未来の処置をしてくれたんだよな」


「はい、今出来る最大限を実施しました」


「それでも、無理なのか?」


「わかりません、これ以上のしようはありません、一度回復に向かえば早いのですが、、」


「タイムマシーンで、未来に戻すのはどうだろうか?」


「今のコンディションでは、時間跳躍は厳しいと思います」


「、、、タイムマシーンは、今どこにあるんだ?」


「詳しくは言えませんが、この基地内の格納庫に専用スペースが確保されていますので」


「相模デポ内には、どれだけの未来人がいるんだ」


「ここには結構いますよ、私を含め30人ほど待機しています」


「全部GFの組織の人間なのか?」


「はい、そうです。ですので、ここはこれまでの場所よりもかなり安全です」


「しかし、第3次世界大戦は、もう始まってしまったのだろ」


「はい、残念ながら、もう始まったと言えます。この後、太平洋上において、一大海戦が始まるでしょう」


 ああ、やはり玲子君が言っていた通りなんだな。

 ここが安全と言っても、その範囲のことなんだろうな、結局、米軍に守られているというポテンシャルは、未来人同士の戦いにおいてであって、この時代の戦いでは、あまり意味がないだろう。

 、、、、エラーノリターン、そうだ、俺たちはエラーノリターンを実施しなければいけないんだった。


「キャサリン、エラーノリターンを実施しなければならない、これは急がなくてはならないのではないか?」


「はい、仰る通りです、しかし、このエラーノリターンは、だれでもいいという訳ではありません、今回に限っては、GFご本人と美鈴玲子の二人で行う必要があります」


「それでは玲子君の身に、万が一のことがあると、どうなるんだ?」


「、、、これはGF組織の本部に問い合わせなければいけない事項です、いずれにしても、この時代改変は少々イレギュラーですから、何の処置もしないのは極めて危険です」


 だよな、とりあえず、無事に明日を迎えることが重要なんだ、とにかく今は。

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