第20話 合衆国陸軍中尉って、将校じゃん

 結局、俺たちは米軍の横須賀基地を選ぶことにした。

 彼女曰く、座間は陸軍だけど、横須賀は海軍なので、何かあった時に融通が利くのだとか。

 、、、、融通?空母でも奪う気ではあるまいな。


「さきほどの森から、2時間は移動したかな、もう横須賀市街に入ってるな」


「はい、しかし、私達の車は少し目立っていますね、なぜでしょう」


 それは、なぜか!

 、、答えは、この時代の車は、めったに銃撃戦をしないから、でしたー。


 、、、、なんだそれ。


 100年分のジェネレーションギャップが所々に効いてくるよ。

 俺がしっかりしないとな。

 一応、去年の予備自衛官補は、技能の英語でパスしているから、軍用英語も少しはイケる!


 もう、夜の9時になっていた。

 米軍も時間制限とか、無いのかな。

 


 横須賀米軍基地の正面ゲートに差し迫る。

 さすがに緊張する。

 俺も米軍は初めてだった。

 彼女が何ら躊躇なくアメリカ兵の警衛隊に身分証と車両通門証を見せると、俺にも身分証の確認を求められた。

 俺は、うっかり彼女が準備した方の身分証ではなく、予備自衛官手帳の方を出してしまった。


 「予備役軍曹ね、問題ないよ、こんな時間に入門なんて、どうしたの?」


 警衛の伍長が、珍しい予備役の手帳に興味を示してきた、彼女がすかさず英語で


「彼は私のフィアンセです、よろしい?」


 、、、フィアンセ、、そうね、そういうことにしておきますか。

 大丈夫か、証拠にキスして見せろ、とか言わんだろうな。

 

 後方から別の車両が来たため、俺たちはそのままゲートを通過して、基地内へと入ることが出来た。


「随分簡単に入れたんだな、玲子君の身分証を見せてもらってもいいかな」


 運転中の彼女の横に置いてあった彼女の身分証を見ると、、、おいおい、合衆国陸軍中尉って、将校じゃん。

 、、随分勇気があるなあ、見た目の年齢だって、俺とそんなに違わないよな、米兵もよくこれを信じたものだ。

 正直、俺が予備役軍曹相当というのも、世間様には恥ずかしいほど高い階級なんだけどね。


 彼女は、基地内のスーパーに車を止めると、簡単な買い物をするのでここで待っているよう俺に言った。

 一応、一緒に行こうか、と聞いたが、窓ガラスも割れて、武器が満載の車両を無人には出来ない、とのことだった。

 、、、まあそりゃそうだ。


 しかし、アメリカ海軍の基地って、随分大きいんだなと思った。

 小さなアメリカの町が、丸ごと一つ日本の中にあるようだ。

 スーパーの駐車場で待っている間も、不審そうな目で俺のことを見てくる客が多かった。

 無理もない、この銃撃戦の跡では。

 、、、いや、逆に、よくメインゲートを通過できたものだ。

 

 彼女が買い物袋を抱えて戻ってくる。

 一瞬、誰だか解らなかった、、、彼女は着替えていたのだ。

 どことなく、この米軍基地の女性と変わらない、普段着。

 、、、普段着もかわいいなあ、あの黒いタイトな服装も良かったが、こうしてラフなスタイルに買い物袋なんて持っていると、少し、、、、夫婦にでもなった気分だ、、、夫婦、、、、言ってて恥ずかしくなってきた。


 でも、俺は、今日一日の色々な事件を考えている内に、彼女とのそんな日常も悪くはないと考えるようになっていた。

 この普段着の彼女との時間が、日常として送れたら、案外幸せなんではないかと、そんなふうに。


 「で、これから、どこへゆくのだ?」

 

 「はい、基地内の将校用宿舎が自由に使えます。敵もここまで入ってはこれませんし、銃撃戦などしようものなら、この基地のガーディアンや本属の軍人たちと交戦になりますから、さすがに侵入はしてこないかと思います。」


 なるほど、それで米軍ね、、、考えたものだ、それならば、最初から米軍が目的地でも良かった気がするが。


 「それと、車を乗り換えますので、忘れ物の無いようご注意ください」


 まあ、忘れ物なんてないけどね。なにしろ窓ガラス割ってとびだしてきたんだから、車内にあったサンダル履きですからね。

 それでも、少しは安全な場所に行って、休むことが出来ることが、心底有り難かった。

 このまま何も起こらないことを祈りつつ。




※ 美鈴 玲子の私服設定です ↓

https://kakuyomu.jp/users/wasoo/news/16817330668114068197

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