第7話 当家自慢の「超微炭酸水」

 気まずい雰囲気が流れてしまった。

 さすがにちょっと飛ばしすぎたか?


 どうも感覚的な話にはなるが、彼女は大人びて見えるのに、男女の話になると、まるで女子中学生のようなところがある、これが詐欺のテクニックだったら本当に凄い。

 でも、そこまでして俺に近づく価値など無いだろうに。

 もしかして、実は実家に大金が入っていて、それを狙うとか、、、

 まあ、無いな、それならこんな苦学生、今時やらんわな。

 結局、奨学金に手を出しているから、今の俺の資産はマイナス。


 そんな俺から、一体何を奪おうと言うのか。

 、、、臓器か、臓器売買なのか?

 まあ、健康だけは自慢できるけどね。

 部活引退してから、もう結構時間が経ったしな、高校時代ほどでは無いが、今でも結構イケてるとは思うぞ、俺の臓器。

 去年、大学生でも掛け持ちできる予備自衛官補の試験にも合格してるから、身体的には問題ないはずだ。


 それにしても、彼女は美形だ。

 先程から目を涙で濡らしつつ、紅潮した頬を見ていて、本当に色白だなあと思う。

 ハーフ?ちょっとクオーターかな?

 純粋な日本人では無いように見える。


 、、、しかし、この気まずい空気、いつまで続くんだ、さすがにちょっと長いな。


「、、、失礼、客人にお茶も出さずに。」


 とりあえず、この場の空気を変えようと、お茶とは言ってみたものの、この部屋にお茶を入れるセットなんぞ無い、ある訳がない。

 あー、冷蔵庫にペットボトルの炭酸があったかな、、、いや、お客様に出せる炭酸レベルではないな、多分、もう超微炭酸になっている。

 、、、超微炭酸、まあ、そう言う設定にしておくか。


「どうぞお構い無く、GF自らそのような、恐れ多い事です。」


「まあ、そう言うな。当家自慢の、超微炭酸水でも飲んで行きなさい」


 そう言うと、再び彼女は照れ隠しを始めた。

 いや、本当にかわいい生き物だな、この人。


 透明なグラスに、氷も入っていない無色透明な、ただのサイダー。

 いやあ、我ながら情けない。

 でも、彼女は少し嬉しそうに見えた。


「GFから頂きましたこの炭酸水、私、生涯忘れません。」


 あー、炭酸苦手なのかな、このくらいの炭酸で丁度良かったと言う事かな。

 どうしてこの女性は、俺がする事に何でも過剰反応するのだろう。

 詐欺だとして、リアクションが不自然で、これで美人でなければ、多分不信感しか俺は感じないと思うのだが。


「少しは落ち着いたかね。その、彩音のことは気にしないでほしい。私も気持ちを切り替えて生きて行こうと考えている。」


 そりゃ黒歴史ですから、もう忘れたいですよ。

 でもね、そんな黒歴史を忘れ去り、人は前を向いて生きて行かねばならんのですよ、今の俺のように、前を見て!

 ってか、もう西園寺彩音の名前は出さないでね、凹むわ。

よし、切り替えてゆくぞ。


「少し聞きたいのだが、これまでの話を総合すると、君は元の未来には戻れないと言う事にならないか。」


「ご心配には及びませんわ。何故なら、元の世界と言う概念がありませんので。」


 へー、無いんだ、、、なんで?


「先程もお話したように、時間軸は単一で存在していません、常に周囲の近似時間軸や、人それぞれの時間軸と相互干渉しているため、まったく同じ時間軸と言うものを再現する事は、ほぼ不可能です。」


 ほほう、なるほど、だから未来人がこの部屋に来たとしても、時間を変えた影響は少ないと言う訳だ。

 しかし、それでも影響がある以上、時間の修正と言うものは存在するだろう、いわゆる時間の神様による強制力と言うやつね。


「うむ、しかし、本来あるべき未来を大きく変えた場合、未来から時間軸の強制力が働くのではないか?」


そう、それこそが一番恐ろしい事ではないか。

何故ならここに彼女がいると言う未来改変は、恐らく俺の未来に大きく干渉してしまっているからだ。


どうする、これ?

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