第4話 自称未来人「多元宇宙論」を語りだす

「私がこの世界に来た時間軸は、最初から存在しています、そして来なかった時間軸も、同時に存在しています。」


おおお、多次元宇宙論!

なんか俺、この話、ちょっと好きかも。


タイムトラベル理論を説明して、自分が未来人である事を証明せよ、と言ってはみたが、意外としっかり設定組んでるな、この詐欺師め。

どれどれ、その先に、タイムトラベルはどう辻褄が合うのかなー。


「私がここへ来た事で、選ばなかった未来があります、それは雄介様が今日もこのまま何も無く過ごす時間軸。」


ん?ちょっと待てよ、それでは選ばれなかった俺の未来は、この宇宙のどこかに存在すると言う事か?

そうすると、その世界にも俺が居ると言う事になるではないか、さすがにそれには無理があるぞ。


「いや、それでは別時間軸にも私が存在してしまうではないか。」


俺がそう言うと、彼女は怪訝そうな顔をしてこう答えた。


「、、いえ、ですので雄介様は、それが認識出来ていると、先程仰ったのですよね。」


あれ、俺、そんな事言った?、なんかちょっとやっちゃった、もしかして。


「、、、うむ、無論じゃ、さあ、続けたまえ」


なんだか緊張してきた、言葉遣いが老師様みたいになってしまった、急だったからな、俺のキャラ設定メチャクチャだよ。


「世界は同時に複数存在しています。その中で、現行人類は、その中の一つだけを認識出来るレベルにあります。ですので、雄介様の選ばれなかった世界は存在していますが、感じる事はできないのです。」


あー、なるほど、、、、なんか凄いな、面白いぞ。

しかし、それでは、時間が進むとともに、時間軸は無限に増え続けてしまうではないか。

流石にそれは、この宇宙の物理法則が許してくれないのではないか?

、もう、聞いちゃおうか、この際、設定とかもういいや、老師様でも。


「しかし、それでは宇宙は無限の時間軸を抱え続ける事になるが、それはどうする?」


「ですので、未来には、概ね行くべき方向性と言うものがあるのです。この時代の自動車もそうですよね、ハンドルから手を離しても好き勝手には車は進みませんよね。」


確かにそうだ、ハンドルを離しても、自動車の前輪は左右の車輪が微妙に内側を向いているから、しばらくは同じ方向に走り続ける事ができる。

、、、なるほど、よく考えているな、それでは少し意地悪をしてみるか。


「未来が複数同時に存在する事は認めよう、しかし、その理屈だと別の道に進んだ未来と同じ数の過去が無ければ、この話の辻褄が合わないのではないか?」


どうだ!俺的には結構攻めた意見だぞ、どうする?論破できるかな?


「はい、ですので、そう言う事を申し上げています。ここから見れば、選ばなかった未来の数分、選ばなかった過去は存在しているのです。」


いや、それではこの宇宙は膨大な時間を抱えている事になるではないか。せめて選ばなかった過去は消去されてもおかしくはないのではないか?


「うむ、それではなぜ、この宇宙は、選ばなかった過去まで後生大事に保持し続けるのかね、思い出を捨てられないロマンチストとでも言いたいのかな」


「、、いえ、ですので、選ばなかった未来を、もし選択した場合、選ばなかった過去も合わせて選択しなければ、時間軸が合いませんよね。」


ん、、、んんんー!

ちょっと待って、ちょっと待って、

それって、未来の選択次第で、過去は変化してるって事?

斬新な発想だな、考えた事すらないわ、面白い人だな。


「するとつまり、君がここへ来た時点で、私の過去は変化したと言うことになるが。」


「はい、変化しています。」


いやいや、変化なんてしていないって。

思い起こしても、何も変化は無いぞ。


それでも俺は、彼女の話す世界観に、徐々に魅了されつつあったのだ。

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