第78話 決戦の始まり
空中で技を繰り出し、どうにか体勢を変えて落下の衝撃を和らげた勇は、上手く着地に成功する。
他にも大勢が着地に成功するが、威力を殺すことができずにそのまま地面に叩きつけられてしまった兵士たちも多い。一部はそもそも暗黒魔城の外側に転送され、なすすべもなく地上へと落とされていった。
しかし、幸いか叶があえて狙ったのか、勇とクラスメートたち、英雄たちや天使たちは誰一人として欠けていない。姿が見えない者も数人いるが、落ちていく様子は見えなかったために中へ直接転移させられたのだと思う。
今いる者たちを確認し、勇を先頭にして人類軍が進む。
魔王城の門はすぐ目の前だ。何メートルもある荘厳で恐ろしい雰囲気の門の前に立ち、深呼吸をする。
「遂にここまで来た。魔王を討ち、そして平和を!」
叶への恨みはまだ燻っているが、今は兵士たちの士気を上げる。
覚悟を決めた兵士たちが気合いを入れるために大声を発し、勇が門へと向き直った。
「突入――」
「お待ちをイサム様!」
英雄の一人が慌てて勇を止めた。
素早く腕を引いて引き下げると、直後に門の前に巨大な剣と槍と斧が降ってきて突き刺さる。
あのまま突進していれば死んでいた。危ういところだった。
そして、武器が降ってきてから少しして何かがまた降ってきて、土煙と轟音を巻き上げる。
「な、なんだ!?」
勇が驚いて声を上げると、土煙が晴れて降ってきたものの正体が判明する。
それは、緑色の肌を持つ半裸の七メートルほどの大男だった。
全身の筋肉は膨れ上がり、無駄のない肉体が作り上げられている。最小限の鎧を装備し、阿修羅のような六つの腕は動けるようにそれぞれが運動していた。真紅に染まった目が勇たちを睨み付ける。
「何だお前は……!」
『ふんっ。貴様らが勇者とその仲間たちか。しかし、アールコーンから聞いていた小娘たちがいないようだが……まぁ、構わない』
大男が武器に腕を向けると、それらが勝手に動いて大男の手に戻っていく。
そして、どこからか盾と弓を持ち出して装備すると、五つの武器を見せつけながら足で地面を踏み鳴らした。
『我が名はガルグレイド! 魔王レングラード様が住まうこの天帝の暗黒魔城の番人である!』
「魔王軍の幹部か……!」
勇が鑑定で立ちはだかる強敵の情報を確認する。
【ガルグレイド】
種族〈魔人〉 性別〈男〉 総合レベル1938 ジョブ〈武神レベル999+ 付与術士レベル4 魔導師レベル27 魔神レベル100〉
これまで戦ってきた幹部たちとは別格の強さに一瞬怯む。
が、聖剣を持ち直すと切っ先をガルグレイドに突きつけた。
『勇者よ。異世界人とはいえ、数々の魔王軍幹部を屠ってきたこと。それは褒めてやる』
ガルグレイドがもう一度足で地面を踏み鳴らした。衝撃で兵士たちがよろける。
『だが! 魔王軍で総合レベルが1000を超えているのは魔王様を除くと我とアールコーンのみ! レベルが三桁の幹部を屠った程度では超えられない絶望の壁を見せてやろう!』
「僕たちはお前を倒し、魔王も討つぞ!」
『貴様らなど、魔王様が直々に相手するまでもない! カナウ様に呼ばれたようだが、ここは通さぬ! 我がこの場で血祭りに上げてやるわ!』
ガルグレイドが動く。
二本の腕で弓を引き、限界まで引き絞ると後方にいた天使たちへと狙いを定めた。
『目障りな雑魚どもよ! まずは貴様らから死ぬがいい! 穿て! フェイルノート!』
勢いよく放たれた矢が大気を引き裂いて飛翔し、あまりの衝撃にプラズマを纏いながら天使たちに襲いかかった。
回避しようにも間近を掠めただけで即死する威力の攻撃になすすべはなく、あっさりと血肉へと変えられてしまう。
弓による攻撃の間に、英雄たちがガルグレイドに接近していた。
それらすべての攻撃を、盾を動かして完璧に防ぎきる。
「く……っ!」
「強い!」
『我が盾アイギスの守りは破れぬ! そして、貴様らも消し去ってくれるわッ!』
中段の手が持つ斧と槍が怪しく輝きを発した。
ガルグレイドの目が光り、筋肉が膨れ上がる。
『唸れ! ノーアトゥーン! アラドヴァル! 魔王様の敵を討ち滅ぼすがいい!』
近場は斧による強靱な攻撃がすべてを破壊し、退避しても槍のリーチに潰される。
嵐のように激しい攻撃が繰り出され、その影響は離れた場所にいた兵士たちにも及んだ。
英雄たちや勇たちのような実力者は回避に成功するが、兵士たちは一瞬のうちに死体へと変えられてしまう。
これ以上はやらせまいと、タンクの男子生徒――アビスで叶を魔物たちの標的に変えた
その間に剣士の女子生徒――アビスで叶を刺して放置した
それからわずかに遅れて勇も攻撃を仕掛ける。
それを見たガルグレイドは、大剣を勢いよく前方に突き出した。
瞬間、火炎が津波のように噴きだし、勇たちの攻撃を中断させる。
『我が愛剣レーヴァテイン! 我には近づけさせんぞ!』
「くっそ……なんでもありかよ……!」
「俺を無視してこんな技を出せるとは……!」
「なんなのよこいつ……!」
「これが魔王軍の幹部か……!」
あまりの強さに勇たちがたじろぐ。
決して通さないという意思に、歯がみするしかなかった。
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