第79話 立ちはだかる姉妹

 激しい戦闘音を聞きながら、聖たちは魔王城の側面階段を駆け上がっていく。

 聖が特殊な召喚術を使用でき、空を飛べる獣を召喚してここまで到達できた。

 しばらく進むと、内部へと繋がる扉を発見する。

 ちょうど正面門が見える位置に立っており、そこからガルグレイドと勇たちの戦いが見えていた。


「魔王め……まさかあんな隠し球を持っていたとは」


 苦々しい顔でエリザベートは言う。

 総合的な強さで見ればアールコーンの方が厄介で強い。しかし、レベルや戦場を考えると、門を守護するといった状況ではガルグレイドに軍配が上がる。

 本来ならば勇の援護にいくべきなのかもしれない。

 しかし、エリザベートは剣を抜くと、聖と未玖がこじ開けようとしている扉に向けて構えた。


「突破します! はっ!」


 居合い斬りで扉を切り裂き、内部への突入を可能にする。


「おぉー……」

「さぁ! 行きましょう!」

「そうですね! 敵に注意しつつ前進!」


 聖を先頭にして魔王城内部へ突入していく。

 中は幹部ほどではないにしろ、強力な魔族たちが跋扈していた。魔王軍の精鋭部隊だということは容易に想像ができる。

 それらを倒しながら順調に進んでいく。

 そして、聖たちが曲がり角に差し掛かったときだった。


「うわっ!」

「きゃっ! って、梓?」


 梓ともう一人、クラスメートの獅子神英里佳ししがみえりかと鉢合わせる。


「なんで? 勇たちは外で……」

「気づけばここに放り出されたのよ。あんたこそどうしてここに?」

「それは……」


 目的を言おうとした瞬間、背筋が凍るような殺意を感じた。

 全員がその場を離脱すると、無数の血の刀剣が飛んで来て床に突き刺さる。

 即座に戦闘態勢となって刀剣が飛ばされた方を見ると、小さなコウモリが二匹飛んでいた。

 コウモリは少女の姿に変化すると、クスクスと可愛らしい声で笑う。金銀美しい二人の髪がなびいた。


「仕留め損ねた。ざーんねん」

「セイさんたちは早く行ってください。そこの二人を半殺しにしてカナウ様の元に連れていくのに邪魔です」


 サラとイリスが臨戦態勢で笑っていた。

 梓が鑑定を使って二人の情報を確認する。


【イリス=ヴァンピール】

種族〈魔人〉 性別〈女〉 総合レベル1733 ジョブ〈吸血姫レベル999+〉


【サラ=ヴァンピール】

種族〈魔人〉 性別〈女〉 総合レベル1007 ジョブ〈吸血姫レベル992〉


 幹部クラスの敵の例に漏れず、相当な強敵だ。

 サラが指を鳴らすと、四方の空間がねじ曲がって無数のナイトメアフォールンたちが現れた。何体かは吸血鬼へと進化しており、総合レベルも高かった。

 イリスが手首を噛みきり、多量の血を出して自分を小さくしたような人形を作り上げる。人形のレベルも三桁はあり、戦力差がさらに開く。

 この敵を前にして英里佳が震えながら盾を構えた。

 英里佳のジョブは守護戦士。藤吾の守護騎士と比べて防御力が低く攻撃力が高いジョブだが、タンク職に変わりないため敵の攻撃を受けて引きつける必要がある。

 しかし、この強さの敵がこれだけいるとなると、どれほど耐えられるか分からなかった。


「ど、どうすればいいの……」

「ここで固まって迎撃する。英里佳が守って私が敵を倒す」


 ナイトメアフォールンたちは本当に聖たちを狙うつもりはないようで、ジリジリと梓ににじり寄っていた。

 その中でエリザベートが剣を構え、切っ先をサラたちに向けたことでナイトメアフォールンたちも動きを止める。


「どういうつもりですか?」

「エリザベートさん?」

「……私は、セイ様の国について深く知っているわけではありません。でも、思うんです。彼女たちのしてきたことは決して許されないが、それでも私刑は認められないと。正当な裁きで罰を受けるべきだと思います!」

「まさか、殺さないと言ったから調子に乗っているわけじゃないですよね。向かってくるなら……躊躇せずに殺します」

「覚悟の上です。……魔王軍幹部の者たちよ! 勝負!」


 エリザベートが声を張り上げると、刹那の間でイリスが距離を詰めていた。

 強烈な拳がエリザベートを襲う。


「うぐっ!」

「あはは! 私、お姉さんとは本気で殺し合いがしたかった! 付き合ってもらうよ!」


 勢いそのままに二人がどこかへと飛んでいく。


「まったくあの子ったら……で、セイさん。あなたはどうするつもりですか?」

「……ごめんなさい。私はエリザベートさんと一緒に二人と戦います。殺したりはしません。それが、全員の笑顔に繋がる道だと信じてますから」

「は? あんな化け物さっさと……」

「梓は黙ってて!」


 聖の怒鳴り声に梓が気圧される。

 未玖も沙苗も頭を下げて武器を持ち、聖の隣に並び立つ。


「そうですか。私を殺さないというのならそれで構いません。私も、セイさんたちは殺しませんよ。……でも」


 両手に血の槍を作りだし、狂気が宿る瞳と愉悦に歪んだ口のサラが見せた表情に、聖たちが息を呑む。


「殺さないだけで本気でいきます。両手両足は覚悟してください」


 最後にナイトメアフォールンたち全員に強化魔法を付与すると、命令を変更して聖たちにも攻撃の矛先を向ける。

 余計な言葉はもう交わさず、己の武器に思いを乗せた。

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