第69話 永遠の死

 逃げ場はない。今までの恨みを全てここで返してやる。

 殺意で重くなった足を踏み出すと、比例して圧された水穂たちが無理やり後ずさる。

 上空から遅れて到着したサラが着地した。


「ちょうどいいところに。サラ、あいつら殺しておいて」

「いいんですか?」

「ええ。私はこいつに専念したいから」


 どうでもいい謙次と信次はサラに処分させる。

 任せられたサラは、片方の手の爪を鋭く伸ばし、謙次の首を引き裂いた。飛び散った血を頭上に浮かべた赤い球で吸収する。

 全身の血を抜かれてミイラのように干からびた謙次を見て信次が悲鳴を発した。

 その声が鬱陶しいとばかりに球体から血の槍を発射する。

 槍は信次の頭を貫いて砕けた。血だまりが広範囲に広がる。

 二人を一瞬のうちに惨殺し、興味を失ったとばかりに視線を変えると、死んでいるセバスチャンを見つけた。


「ッ! カナウ様……」

「サラ。セバスを弔ってあげて」


 そう言うと、叶は水穂の前に立った。

 立っていることが出来なくない水穂の頭を容赦なく踏みつけた。何度も何度も顔を蹴って恨みをぶつけていく。

 鼻血が噴きだし、歯がへし折れて唇から多量の出血がある。眼球にも傷が付いて視界が狭く、赤く染まった。

 口内に血が溜まり、言葉を発しても何を言っているのか聞き取れない。

 教会が秘宝として長年大切に保管し、水穂に渡された聖なる杖を破壊する。

 地面に赤黒い巨大な紋様が広がった。無数に生まれた点から赤い輪郭をした黒い腕が無数に伸びてくる。

 腕は水穂の体の至る所を掴んだ。

 腕の目的を察した水穂が青い顔をし、叶がニタリと笑って腕を引く。

 その動きに連動するように闇の腕が動き、無理やりに体を引きちぎる。


「ッ!? ぎぎゃあああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 大量の血を吐いてようやく言葉らしい絶叫を出しながら悶える。

 明確な致命傷。飛び散った自分の体だったものをぼんやりと見つめ、ゆっくりと水穂の意識は途絶えて――、


「“マキシマイズ・キュアーロ”」


 サラの魔法が発動し、水穂の体が修復されていった。

 手足が再び生えて、引きちぎられた体も再生する。


「……は? どういう……」


 助かったのかと安堵する。

 が、次の瞬間にナイフが飛んできて足に深々と突き刺さり、爆ぜて膝から先を吹き飛ばされた。

 痛みに気が遠くなる。

 そんな水穂の頭を叶は鷲掴みにした。


「大事なことを忘れてたわ。“痛覚激化”」

「ッ! が……ッ! あああぁぁぁ……ッ!」

「あはは! 地面の小石が擦れるだけで体を裂かれるような痛み。たーっぷりと楽しんでくださいね♪」


 空中に無数の魔法陣が展開される。

 それらすべてから闇の刀剣類が突き出してきて、一斉に射出された。

 一瞬で全身を無数の刃物で串刺しにされ、激化した痛覚でもはや気が狂いそうになる。

 心臓や脳までも穿たれ、穴だらけになった体は粉々になり――、


「“マキシマイズ・キュアーロ”」


 再度サラが回復魔法で傷を癒やした。

 震える水穂の肩に優しく叶が手を置く。にこやかな笑顔でポンポンと叩いた。


「安心してください先生。百回や千回死んだ程度で解放なんてさせませんから。死んだ記憶もそのままに、痛覚は死を重ねる毎に激化して、気が狂ってもサラはそのすべてを癒やしてくれる。だから、安心して何度も何度も正気を保ったまま永遠に死に続けてください」

「わ、私が悪かった……! すまない……ゆ、ゆゆ、許してくれ宮野……!」

「だーいじょうぶ。うっかり即死させちゃった、なんてこともないですからね?」


 邪悪な笑みを浮かべて空を見上げる。

 どこから持ってきたのか今度はハンバーガーを囓っていたアルマは、叶の視線に気が付くと口の中のものを一気に飲み込んだ。


「ん、おうよ。今生の幽閉っていう固有結界を展開してるから、死んでも一時間は魂が体に留まるぜ。その間は回復魔法による蘇生が有効だ」

「そんな……」

「ったく。叶も邪神使いが荒いんだからよぉ」

「ごめんなさいアルマ様。でも、こういうの好きでしょ?」

「大好きだね! ほらもっとやれよ! これに勝る娯楽はねぇ!」

「サラもありがとうね。私、どうにも回復魔法は苦手で」

「大切な仲間を殺されたんです。地獄を見せてやるくらい容易いことですよ」

「ははっ、まぁ、そういうことですよ」


 腕をお腹の中へと突っ込んだ。

 米を研ぐみたいに水穂の臓物をぐちゃぐちゃに掻き回し、腸を引きずりだしては投げ捨てる。

 取り過ぎるのも申し訳ないからと、奪った腸を細かな肉塊にして無理やり水穂の口に詰め込むなどもした。飲み込みづらいのは悪いと口を切り裂き、喉を掻っ捌いて通りをよくする。

 さすがに息絶えるもそこはすぐにサラが回復魔法で蘇生する。苦く錆び付いた内臓の味が口に残っており、涙を流しながら嘔吐した。胃液だけが地面に巻き散らかされる。


「体調が悪いわけでもないのに吐くなんて、すっごい失礼ですよ。先生なんだし、食べ物の気持ちを一回知ったらいいんじゃないですか~?」


 新たに魔物を召喚した。

 巨大な口を持つミミズのような化け物は、水穂に食らいつくと上半身を食いちぎる。


「サラ。負担が増えるけどごめんね」


 叶は残った水穂の体も食わせると、胃の中でサラに蘇生させる。

 蘇ると同時に強力な胃酸で体をドロドロに溶かされて。

 水穂は何度も何度も増していく痛みの中で死に続けているのだった。

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