第46話 邪神の策略
レングラードと、彼が従える二人の幹部、それからアルマを魔王城に招き入れる。
サラとセバスチャンに急で悪いと謝りながら、歓迎の用意を整えるように指示を出した。二人は急いでナイトメアフォールンやヴァンパイアたちを動員する。
その間に叶は魔王城地下七階にある会議用の大広間に一行を通した。
滅多に使われず、それでもヴァンパイアたちが掃除を欠かさない綺麗な部屋の中央でアルマが周囲を見渡している。
「中々綺麗なもんだ。どっかの魔王城とはだいぶ違うな」
「え?」
「それは言わないでもらえると。使わない部屋を掃除しようなどとどうにも思えないのですよ」
茶化すようなアルマの物言いにレングラードが頭を掻いた。
何のことを言われているのか悟り、苦笑いで叶が返す。
アルマが椅子を引いて腰掛けた。次に、指を鳴らして六人分の椅子を動かす。
「まっ、いつまでも立って話すのもなんだ。座ってこれからのことを話し合うとしようぜ」
アルマからの提案に頷き、叶とレングラード、そして二人の幹部も座る。
サラたちもお茶や菓子を運んできたので、後のことはナイトメアフォールンたちに任せるように指示を出して席についてもらった。
出されたお茶を無遠慮に一気飲みしたアルマが一息つく。
「ふぃー。さぁて、お前たち。最終戦争のお時間だ」
アルマから発せられる魔力が強くなり、叶とレングラードの二人が表情を引き締める。
アルマが指を鳴らすと、部屋の灯りが全て消えた。代わりに、部屋の中央に魔力で投影される立体映像が浮かび上がる。
「プロジェクターみたい」
「プロ……なに?」
「叶が元いた世界の技術だ。あの世界は元から光の側だから俺たちは精々観光くらいしか干渉が……っと、んな話はどうでもいいわ」
危うく話が脱線しかけたところで、アルマがその場にいる者の意識を映像に向けさせる。
「想定よりもだいぶ早いが、フォレアを引きずり出すことに成功した。女神を含め俺たち神々は一度その世界に顕現すると、特例を除き勇者と魔王の戦いが終わるまで神の世界には帰れない。まっ、俺は裏技使いまくってるけど」
「つまり、我々か勇者のどちらかが倒れるまで女神はこの世界に留まる、と?」
「そういうことだ。だが、捕らえて嬲り殺しにしたくても、勇者とその仲間が近くにいる以上は難しいな。俺なら容易く全滅させれるが、世界法則によって手出しができない。こればっかりは姑息なやり方が得意な俺でも抜け道は見つけられねぇ」
「……あいつら、本当に邪魔ね……」
「だろ? そこで、お前たちの力を借りたいわけだ」
再度アルマが指を鳴らす。
映像は地図に切り替わり、地図上には白と黒のマーカーが点在している。
「レングラード。お前が従える軍勢は数が多く、多彩な戦術を構築することができる」
「はい」
「だが、反面個々の力量には不安が残る部分もある。そうだな?」
「その通りです……」
「叶。お前が従える軍勢はレベルが高く、ジョブも攻撃的なものを持つ者が多くて人類にとって充分脅威になり得る」
「ですね」
「だが、反面数が圧倒的に少なすぎる。新しく生み出すにしても、レングラードの軍勢には遠く及ばない」
「ごもっとも」
二人が抱える軍勢の長所と短所を完璧に把握しているアルマの言葉に、完全に同意する。
レングラードは物量差で圧殺する型、叶は少数精鋭で殲滅する型だ。
その特徴も把握し、その上で二人が魔王になった経緯も考えての作戦を組むのがアルマの恐ろしいところだ。
「フォレアと勇者、強力なジョブ持ちは奴らの領域の奥深くに引きこもって出てこないかもしれない。だから、引きずり出してやる」
「「引きずり出す?」」
レングラードと叶が首を傾げると、地図の黒いマーカーが動いて人類の領域に侵入していった。
「まずはレングラード。お前の所の幹部たちをいくつかの部隊に編成し、境界付近の町をぶっ壊せ。徐々に戦線を押し上げる形でな。囮と、本命の二つだけ特に攻撃を激しくしておけ」
「はい」
「すると、必ず連中のことだから英雄やら勇者やらを向かわせてくるはずだ。充分に引きつけ、そいつらをレングラードの幹部と戦わせるまでが最初の段階」
白いマーカーが侵入した黒いマーカーとぶつかり合う。
その後、後から出発した白いマーカーの横合いから黒いマーカーが襲いかかった。
「次。幹部たちには持久戦を徹底させろ。そうすることで補給、増援が出てくるはずだ。もしフォレアの口添えがあるならなおさらな。そこを、叶自ら潰しにいくといい」
「出てくるとすれば勇者の仲間、ですか。ありがとうございます」
「叶がある程度殺せば、前線の部隊を撤収させる。そして最後の段階として、本命ルートを使い、レングラードが一気に攻め上がりつつ叶と合流。本拠に進攻し、勇者も女神も……叶が気にかけているあの少女を除いて全員殺せ」
「「はっ!」」
「そこでなら俺も存分に力を振える。ああ、今から楽しみだなぁ……」
不気味な笑いを漏らし、アルマが席を立った。
部屋の灯りが戻り、アルマの姿が薄くなっていく。
「基本的な方針は以上だ。後は二人で細かなところを話し合うといいさ」
「アルマ様は?」
「俺か? もう一人、こちら側に誘いたい奴がいるから、その勧誘に」
アルマが消え、二人が残された。
いつの間にか、机の上には先ほどの話を纏めた巻物がいくつも置かれている。
用意がいいなと笑い合い、改めて巻物を広げて打ち合わせを行う。
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