第24話 奮戦虚しく

 戦闘に加わる明人。だが、もう防衛線はズタボロにされてしまっていた。

 町を守る壁を粉砕し、乗り越えてくる魔物たち。そのすべてが騎士や兵士たちのレベルを上回っている。

 魔物による魔法と思しき攻撃があちこちで連続し、空けられた穴から近接装備の魔物が突っ込んできた。


「くそ! これだけの数どこに潜んでやがった!」


 人類の領域にも魔物はいるが、数は少ないはずだ。

 それに、昼間に聞いた話によると、近隣で少数の魔獣を駆除したものの魔物は確認されなかったとか。鉱山の空洞に隠れていた可能性もあるが、広範囲を掘った鉱夫たちが一度も遭遇しなかったのは明らかにおかしい。

 だが、今は魔物の出所などどうでもいい。このままでは最悪の場合全滅だ。

 後ろにいる二人だけは守り抜く。そう固く決意した。

 兵士を殺して油断していた首のない騎士を背後から襲って倒す。鎧は硬かったが、技を使うことで切り裂くことができた。

 霧となって消えていく魔物の死体。

 それを飛び越えて黒い猫が飛びかかってきた。

 前脚が異様に長く、鋭い。明人が猛烈に嫌な予感を感じる。

 さっと体を倒して攻撃を回避する。

 猫は、近くにあった建物へと脚を振り抜いた。音もなくすり抜け、綺麗な断面で切り裂かれる。

 悍ましいほどの切れ味だ。間違っても防いではいけない。

 再度攻撃を仕掛けてくる猫。


「こい! “斬鉄剣”!」


 鉄を一瞬で裂く威力の斬撃が飛ばされる。

 明人の攻撃で猫の体が真っ二つにされた。同じように霧となって消滅する。

 他にも多くの魔物が明人を狙って集まってくる。


「さぁこい! 全部倒してみせる!」


 剣を体の正面で構え、勇ましく大声を張り上げる。魔物たちへの威圧、そして自分への鼓舞だ。

 明人の顔を見て魔物たちが動きを止めた。何体が走って後方に走り、残りは逃がさないように包囲陣形を作る。

 やがて、大きな地響きがした。暴圧的な魔力が近付いてくる。

 明人の前に姿を見せたのは、巨大な悪魔だった。


『ゴオオオオオォォォォォォォォッ!!!』

「な、なんだこいつ……!」


 鑑定のスキルを使う。


「ベリアル!? しかもレベル500超え!?」


 ふざけるなと言いたかった。

 こんな化け物にどう勝てというのか。間違いなく死は確定。

 逃げ出したい。だが、逃げれば命よりも大切な詩織が殺されてしまう。

 震える足を無理やり押さえつけて剣の切っ先を差し向けた。


「ここで死んで、たまるかよ!!」

『●●●●●●……』


 ベリアルが何らかの魔法を使おうとしていた。

 爆発系の魔法らしく、指の先端で細かな爆発が連続している。一気に広範囲を吹き飛ばす技だと確信した明人が、咄嗟に防御技を使おうとする。

 焼け石に水だと分かっている。それでも、何もしないよりはマシだった。


「“バリアストレングス”!」

『“●●●●……』

「――待て。そこまでだ」


 若い男の声。

 制止が聞こえると、ベリアルが攻撃を中断した。

 ベリアルの後ろから歩いてくる青年。その手には漆黒の刀が握られている。

 静かで、深い闇の殺意。気を抜けば底知れない闇に呑み込まれて意識を失いそうな予感がした。


「お前は……?」

「……レン。お前は、勇者の仲間か」

「っ! だったら……!」

「カナ……大魔王様は全員職人だと言っておられたがな。まぁ、間違う辺り可愛げがあってますます仕えたくなる」

「なんの話を……! それに、大魔王……!?」

「……お前と、他に仲間がいたらそいつらも。全員捕らえて大魔王様の前へ連れて行く。それが大魔王様に与えられた俺の命令」

「させない! 詩織には指一本触れさせない!」

「シオリ、ねぇ。名前なんてどうでもいいが、大魔王様が殺したがっている者ではないか」

「なに!?」

「気にするな。まぁ、それでも気になるなら後で知るがいい! いくぞ……!」


 レンが持つ刀が殺気を孕む。

 戦闘だと理解した明人が後方に下がりつつ鑑定を使った。だが、なんの情報も得られない。


「くっ!」

「まずは小手調べからだ。“常闇の剣戟・流麗斬夜”」


 レンが刀を振った軌跡に生じる七色のエフェクト。

 夜に映えるオーロラのような剣筋が明人を追った。静かで、綺麗な攻撃。

 だが、その性質は凶悪極まりない。光に触れた露店はすっと線が入り切り裂かれる。キルキャットの攻撃よりも明らかに威力が上だ。

 迫る攻撃から逃げても追ってくる。ならば回避あるのみ。

 そう考え、明人は空中で無理やり身を捻った。顔すれすれを攻撃が通り、髪が何本か散る。

 が、無理やりの姿勢のため次の攻撃は躱せない。そして、その隙を見逃すほどレンは甘くない。


「“常闇の剣戟・空断ツ黒刃”」


 黒い斬閃が一文字に入る。

 明人の体にも容赦なく攻撃は叩き込まれ、宙に血華が咲いた。

 痛みで気が遠のく明人。そこに、レンが無表情で近付いて頭を踏みつける……。

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