ホラーの穴
在都夢
何も見えない
部活帰りにファミチキ買って駐車場で食べてたら急に足立が「なんかいるわ」と言い出す。ばっと立ち上がり信号の方を指差して、「ほらあれあれ!」と指差して一人で盛り上がっているけど、俺も早坂もなんのことだかさっぱりわからない。だってそこには誰もいないし何もないスペースなのだ。
霊感的なあれか? お前そんなキャラかよ足立。
俺も足立も早坂も坊主で中二で野球部でそういうオカルトとは無縁だ。だからこそ俺は足立の言う「なんか」が気になってしょうがなくなる。オカルト的なものはいつだって中二の夢だ。
「なんかってどんな感じよ?」
俺が聞くと足立は「わかんない」と信号の下を凝視しながら言う。
「わかんないってことはないだろ」
と早坂が参戦してくる。興味津々って感じだ。
「だってわかんないし……あ、足が生えた!」
と言って足立はガタガタ震え出して後ろに下がる。
「足生えんの!?」
俺も早坂も目を丸くする。
面白い。
俺たちが笑っていると足立は「走ってきた! 逃げろー!」と一人で猛ダッシュして俺たちを置いて逃げるし、あまりにも必死で練習の時より速く走るから余計に笑う。それでどこかに行ってしまった足立を放っておいて、げらげらやりながら早坂と帰ると親の連絡網から足立が死んだことを報告される。踏切無視して線路に侵入したらしい。
翌日に全校集会があって、俺も早坂もちょっぴり泣く。
足立は中学になってからの友達だったけど、結構仲が良かったのだ。
でも悲しんでいる暇なんてなくて中三に上がった俺たちは受験生だったし、部活も最後の大会だし、あっという間に時が過ぎる。最後の大会を二回戦で負け、夏休みは丸々塾で過ごしていると秋冬受験即合格って感じで安心して卒業式を迎える。
絶対泣かないと思っていたけど、意外にも俺は学校のことが好きだったみたいで「旅立ちの日に」を歌っていると鼻がツンとしてきて横を見ると早坂がボロ泣きしていて俺も釣られて泣く。
今日って良い日かもしれない。
じんわり恥ずかしささえ覚えるような暖かい気持ちに浸っていると、早坂が「旅立ちの日に」がクライマックスというところで急に天井を見上げガタガタ震えながら「いるわ」と言って走り出し、赤い絨毯を突っ切り体育館から出ていく。
突然のことのあまり、誰も早坂を止められない。
俺も動けない。
桜交じりの風が体育館内に吹き込んでくると、ようやく生徒指導の田中先生が動き出す。でも結局、田中先生が戻ってきたのは出て行ってから一時間も経ったあとで、警察官を連れた田中先生は、足立が死んだことをみんなに話す。
自殺らしい。
トラックに突っ込んだとか。
俺は早坂と仲が良かったってことで警察に事情を聴かれ、「なんか」について話すけど友達の死を面白がっているやつみたいに扱われ説教されるし、親にもその話が伝わって怒られるし、ほかの友達にもツイッターとかであれこれ言われているらしい。
だけど俺には何も響いてこない。
というよりそれどころじゃない。
なぜなら順番的に次「なんか」を見るのは俺で確定だし、追いかけられるだけで自殺してしまうほど怖い「なんか」がいつやってくるのか怖くて怖くていつだ? いつだ? って常に頭の中から「なんか」の存在が離れないし、何もないスペースがあるとつい「なんか」がいないか探してしまう。恐怖から離れたいはずなのに離れられない。
もうすぐ高校生になるけど、俺はまだ十五歳だし、人生は長すぎる。
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