ワンルーム
雪永真白
第1話 朝
休日。珍しく自然に目が覚めた。
何となく気持ちの良いような、そんな目覚め。
スマホのアラームが鳴らないよう解除するついでに時間を見ると、5時過ぎ。
二度寝するには微妙な時間だった。
何より気持ちの良い目覚めを失くすのは、惜しい気がした。
ちょっと凝った朝食でも作るかな。
いつもは朝食はトーストとコーヒーとかそういった簡単なもので済ませてしまうから。
なんか、カフェごはんとかインスタでハッシュタグが付きそうな、そんなの。
寝起きの回らない頭で考えた割には、中々良い案のような気がした。
ベットから降りて、ぐっと背伸びする。
部屋を出て、廊下を歩き、リビングに続く扉を開ける。
そこには、窓を開け放ったまま、ベランダの手摺に凭れ、下を眺める先客がいた。
今日は珍しい事が続く。普段だったら俺が起こすまで絶対に起きないのに。
「悠太」
その姿に声を掛ける。
ゆっくりとした動作でこちらを振り返り、悠太は薄く笑った。
「おはよ」
挨拶をしながら手招きをする悠太に、おはよう、と返しながら近付く。
それを認め、悠太はもぞもぞと自身の隣にスペースを作る。
お礼を言いながら、空いたそこに凭れる。
悠太は下を指差し、告げる。
「桜、咲いたよ」
そこには、まさに桃色の雲海といった風情で、満開の桜並木が広がっていた。
「う、わ」
思わず変な声が出た。
それにクスクスと笑い、桜を見つめたまま悠太は言う。
「今日は自然に目が覚めたから。なんとなく、さ、頑張ろうと思って。ベランダに出てみた」
俺は何も言わず、悠太を見つめる。それを気にする素振りもなく、悠太は続ける。
「そうしたらさ、こんな絶景が見れた」
いいもん見れたね。
ようやくこちらを向いた悠太は、にひひと音が付きそうなほど、笑っていた。
それに笑い返し、悠太の頭を無遠慮にかき混ぜる。
悠太は何も言わず、笑ったままただそれを享受していた。
髪がタンブルウィード程にぐしゃぐしゃになって、気が済んだ俺は手を止める。
もー、と言いながら髪を手櫛で整えていた悠太に俺は告げる。
「今から弁当作るから、手伝って」
ばっと弾かれた様にこちらを見た悠太の眼は、眼球が零れ落ちるんじゃないと不安になる程に見開かれていた。
それに微笑み、続ける。
「ここで花見しよ」
その言葉に安心した様に笑う。
「僕、翔平の卵焼き食べたい。甘いやつ」
「じゃあ、悠太はおにぎりな。味は梅と塩昆布」
そんなやり取りをしながら、俺達は部屋に引っ込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます