Act.8
「それにしても上手くいって良かったな!」
「ああそうだな。あいつ、今どうしてるかね?」
「無一文だしな!」
ふと、道を歩いていると路地裏の方からそんな会話が聞こえる。闇魔法の<ハイド>で姿を消し、近づく。
「あの女、かなりお金持ってたな。これ結構な額だ」
「これだけあれば、俺たちもしばらく安泰だな」
男たちはわたしの姿に全く気付いていない。完全に犯罪な会話してるよ、周りに人はいないけど。
もし犯罪ならこれは詰め所に連れて行かないとね。取り合えず、話を盗み聞きする。
「荷物よりも、本体を攫った方が良かったんじゃないか?」
「いや、あいつはBランクの冒険者だぜ? そう簡単に攫えねえよ。今回はお前の隠密のお陰で荷物を奪えたな」
「隠密には自信があるぜ」
Bランクの冒険者、荷物を奪う……あれ?
「俺たちに気を向けてる間にお前があのエルフの女の荷物を奪う……上手くいったな」
そしてエルフ。
……男たちの言葉を全て繋げたところで、確信する。スゥっとわたしの心が冷えて行くのが分かる。
こいつらか……。
まさかミストルに居るとは思わなかった。これは偶然なのか分からないけど、一応運が良いって事かな?
こればっかりは、ミストルに来て良かったって思った。もし、もっと後だったら既にこいつらは逃げていたかもしれない。
「――<グラビティ>」
「「「!?」」」
ズン。
男たちが急に地に這いつくばる。闇魔法に属する重力魔法だ。これは対象又は一定範囲の重力場を弄り、軽くしたり重くしたりできる魔法だ。
男三人の重力場を弄った。だから立ち上がれずに、地面に張り付いたま動けないようになっているのだ。
「さっきの話、詳しく聞かせて貰おうか、犯罪者」
「だ、だれだテメェ……グッ」
「<転移>」
この場所でやるのは宜しくないので、転移でミストルから離れた所に移動させる。ここなら誰も居ないので大丈夫だろう。
「じゃあ、聞かせて貰おうか」
ニコッと笑って見せる。ついでに小さなブラックホールみたいな物を掌に乗せてやる。これ自由に大きさ変えられるから面白い。その効果は中々えぐいけどね。
男たちの顔が青くなっていくのが分かる。怖がらせ過ぎたかな? いやでも、こいつらは許し難いことをしたんだ、当然だ。
「「「ひぃぃぃ!?」」」
まあ、そうでじゃなくても今のわたしは背中にワンダデスサイズを背負っている。それの効果もあるんだと思う。
何だかんだこの武器は馴染むんだよね。自分で選んだ武器だからなのかは分からないけど……とにかく、この武器は強いと思ってる。
とはいえ、時間を止めて的確に首を落としてるから、ちょっとずるしてるかもしれない。
□□□□□□□□□□
「なるほど。で、なんでそんな事をしたの?」
地面に正座して顔を青くしながらもびくびくしてこちらを見る男三人。男なのに情けない有様であれだけど、置いておく。
詳しく聞けば、やはりこいつらはティアさんの荷物を奪った犯人であるのが分かった。そしてティアさんの言う通り冒険者でもあった。しかもティアさんと同じBランク。
少なくともBランクの実力はある冒険者だったという事だ。それなら荷物だけ奪うのはティアさんを狙うよりは成功率は高いか。
「はい……あの女にパーティー勧誘を断られたからです」
すっかり、怯えてしまったのかわたしに対して敬語を使ってくる。何というか、正直気持ち悪いです。
でも何とか、我慢しつつ話を聞く。
何度か勧誘していたが、何回目か辺りでどうもティアさんにきつい言葉を言われて、それに逆上したという事だった。
「本人を狙うのは怖いので、荷物を奪ってやろうと思いまして」
白状する男たちにはあ、とため息をつきながら頭に手を当てる。これはどう見ても男たちの方が悪い。
そもそも、パーティー何て絶対組まないといけないと言う物じゃない。それを強制するのは如何なものかと思う。
それにティアさんにだって、もしかしたら事情があったのかもしれない。しつこく勧誘する男が悪い。
「あのさあ……それ完全にお前たちのせいじゃん。何逆上するって」
「……」
「荷物を奪われたティアさんがどんな目にあったか分かる? お前たちがそんなくだらない理由で奪うから、ティアさんは三日以上飲まず食わずだったんだよ?」
あの時、わたしの家の近くに来てなかったら最悪死んでいたかもしれないのだ。
「略奪以外に、お前たちは殺人未遂と言う事にもなるぞ」
「……はい」
荷物を奪う、荷物の中には食料やお金がある、それが無くなれば食べれなくなる。街で買おうにもお金がなければ買えない。
最終的にどうなるか……餓死するだろう。餓死だけじゃない……そんな状態で魔物に襲われてでもしてみろ、対処できずにやられるだろう。
「で? ティアさんの荷物は?」
「俺たちが取ってる宿の部屋の中に……」
「今すぐ持って来い。逃げたら……分かるな?」
「はいぃぃぃ!!!」
再びブラックホールを掌に乗せて、出来る限り低い声で言い放つ。
「20分。20分以内に戻ってこなければ……」
にこり、と笑う。
「は、は、は、はい!!!」
凄いスピードでダッシュしていく男三人を尻目に、再びため息をつく。ティアさんもまた不幸だなって思う。
多分、あれだけ怖がらせておけばちゃんと荷物は持ってくるだろう。本当に逃げるような物なら、容赦はしないが。
荷物が返ってくればティアさんも普通に過ごせるようになる。でも、一度水魔法の便利さを知ってしまった以上、ちょっと交渉をしようかな。
勿論、わたしだって無理強いするつもりはない。ティアさんの意思を尊重するつもりだ。だから居てくれたら良いな、と思うくらい。
そんな事を考えていれば、思ったよりお早いお帰りだった。
男三人が走って戻ってきたのである。一人がティアさんの荷物であろう大きめのリュックを背負っていた。
「これで間違いない?」
「はい! 命を懸けても!」
お、おう……。
そこまで言うなら本物なのだろう、そう信じておく。リュックに手を触れ、ストレージを発動。吸い込まれるようにリュックは消えるのだった。
「お前たちがやった事は犯罪だけど……でもまあ、ちゃんと荷物を返したし、ティアさんも生きてるし、今回は見逃すよ」
「え?」
そんな事を言えば男たちが呆けた顔をする。それもそうか……普通は見逃すって言うのは良くないけど、実際にティアさんは生きてるし荷物も返ってきた。
実質被害はないし、この男たちもちゃんと嘘をつかずに説明した。まだ許せる範囲……なのかな。
この世界は少し軽い。地球と同じに感覚で居るとダメかもしれないなぁ。もっと厳しくするべき?
まあ、今回は許そう。わたしは、やっぱり甘いのかなぁ……。温情っていえば良いのかな。
「けど。二度目は無いよ」
「「「はい、すみませんでした!!!」」」
土下座する男たち。
わたしは男たちが最初居た路地裏に転移で返し、そして転移を使ったと言う記憶を申し訳ないが改ざんさせてもらった。
ばっちり転移を使っちゃったから致し方なし。それにしても闇魔法の記憶操作は便利だなって改めて思うよ。
転移をしたという記憶だけを消しただけなので、特に悪影響はないはずだ……多分。その後は、もう少しだけミストルを見回ってから門を抜けて外へ出る。
<ハイド>を使用することで、自分の気配とかを分からない状態にする。念には念をという事で、ミストルから出た先に丁度あった木陰に隠れてから転移の魔法を使用する。
毎度同じように視界が歪んだと思えば、一瞬で周りの景色が切り替わっていく。気が付けばもう目的地に到着し、本当に便利で強い魔法だなと何度も思ったのだった。
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