Ch.1 奴隷の少女

Ch.1 本編

Act.1


「イタタタ……何だったんだ本当に」


 地面に叩きつけられた衝撃と痛みで目を覚ます。謎の白い空間で変な装置を使って、決定してまた意識を失ったと思えば、このざまである。


「ん?」


 起き上がった所で、垂れてきた髪の毛が視界に映った所で違和感を覚える。それだけではなく、さっきの自分の声も何かおかしかったような。


「銀……髪?」


 垂れてきた髪を見ればそれは銀色をしており、嫌な予感がしてくる。

 試しに髪を一掴みし、引っ張ってみると頭に鋭い痛みが走る。つまりこれは俺の頭から生えている、髪の毛なのは間違いない。

 がしかし、垂れるほど長いはず無いし、そもそも髪の色は日本人特有の黒であったはずだ。


「……あははは」


 胸を触ってみる。小さいながら、柔らかな感触が伝わってくる。


「ひゃあ!?」


 更に弄ってみると、感じたことのない謎の感覚に変な声が出てしまう。

 何かの悪い夢かと思ったが、ほっぺを抓っても痛いだけだし、空気もまるで本当に外にいるような感じもする。


「まじかよ……」


 最後の希望と言わんばかりに、手を下半身の方に伸ばすが……失くなっていた。相棒が居なくなっていたのである。


「……」


 長い銀色の髪に声、そして白い肌。

 現在着ている服も見る。首からぶら下がった懐中時計に、水色のワンピースに白いエプロンドレス……ワンピースの裾を軽く持ち上げると見える、縞々模様のニーハイに茶色の革靴。

 頭に手を伸ばして付いている物を取ってみる。それは見覚えのある、黒いリボンカチューシャであった。


 というより、服装全体が完全に見覚えがある。それもつい最近に。


「アリスになってる?!」


 自分が倒れていたであろう場所には黒い大きな鎌が置かれてるし、これも完全に見覚えがある。

 ここまで揃えばもう、何も否定できない。あの白い空間で作った理想のキャラ”アリス”になってるようだった。





□□□□□□□□□□





「まあ、良いか」


 あっさりと、すんなりと俺は受け入れた。

 これが最近流行りの異世界転生というやつなのだろうか……まだ異世界かは分からないけど何となく地球ではない、そんな気がする。


 地球での暮らしは別に可も不可もない、平凡な物だったし、未練も特にない。両親は既に居ないし、交流関係もあまりない。

 日々、自由に生きていたと思う。何というか空っぽのような、そんな毎日。仕事をしてお金を貰って生活と趣味に費やす。

 特にやりたい事も目指したいこともなく、ただただマイペースに。オンラインゲームだって面白そうって感じでやったりしてた。


 これは転機なのではないか?

 非常識な現象ではあるものの、実際こうなってしまってるし、どうこう言っても意味はない。目の前で起きているこれが現実なのだし。


「でも、性別変わるのは納得行かない!」


 そりゃ、キャラメイクしたのは自分自身だけどさ……誰がこうなると予測できたよ! こうなること知ってたら男で作ってたのに。

 とはいえ、この”アリス”も自分の理想の姿でもあるんだろう。確かにいつかは忘れたけど、女性になってみたいって思ったことはある。

 女の子で可愛くて強いって最高じゃない? と思った次第。あの頃は魔法少女とかそういうのが流行ってたか。


 ゲームでは基本的に女性を選択する。理由はネカマがしたい訳ではなく、操作するならやっぱ可愛い子が良いっていう発想からだ。

 それに、大体のゲームって女性アバターのほうが優遇されがちで可愛いものとかいっぱい出てくるし……男キャラはやはり不遇なのか、と。


「アリス、になってるのは確定だろうなあ」


 十中八九、あの時キャラメイクした”アリス”になってると思う。アリスっていうド定番な名前だけど、良いよねアリス。

 黒光りする両手鎌を持ってみる。両手じゃないと持てないと思ったけど、そういう訳でも無さそうで、片手でも軽々と持てた。


 筋力とかそういう設定はなかったし、これはが素で筋力なのかな? それともこの武器が特殊なだけとか。選んだの自分だし、専用武器になってて特殊な扱いになってる可能性もなくはないし。


「よし、切り替えていこう」


 軽く頬を両手でパチンと叩いた気持ちを入れ替える。

 女って言うことはまあ、完全納得とは行かないが……なってしまったものは仕方がない。それに、作ったのも自分自身だしな。


「まずはえっと、ここが何処かって所だよなあ」


 あとは一人称をどうするか。

 理想のキャラである”アリス”は、一応設定としては”わたし”と、脳内で決めてるんだけど、自分自身がなるとは思わなかったので、どうするか。


「俺……いや、わたし。わたしはアリスです」


 あまり違和感はしないな。……良く考えてみる。

 そういや、会社で一人称を私にするのは良くあることだし、別に珍しくもない。今更何気にしているのか。

 もう、今のわたしはアリスなの。納得した訳ではないけど、何となくもう元には戻れ無さそうだし、戻ったとしても虚無な毎日が続くだけ。


 これを機に女性として、女の子のアリスとして生きていくのも良いだろう。幸いにも自身の容姿とかはわたしの理想のキャラなんだから。


「うん。わたしはアリス……よし」


 さて、心も入れ替えた所で、最初に戻る。この場所が何処なのか? 見た感じだと、何処かの森の中っぽいんだけど。

 何という名前の森なのか、それからどの辺りにある森なのか。残念ながらいくら考えても、ここは森であるという事しか分からない。


「うーん。森っていうのは分かるんだけどね……他の事も考えようかな」


 そう次に確認するのは自身の能力についてだ。あのキャラメイクの、最後の画面に能力を入力して下さいっていうのがあったと思う。そこで記入したやつが扱えるのか、大事である。

 まずは一つ目だ。スペースまたは句読点区切りで複数設定できるって書かれていたので、盛大に欲張りセットにした気がする。


「<タイム・ストップ>」


 刹那。世界の時が止まった……気がする。能力は確かに発動した気はするんだけど、如何せん森だし何もないので確認ができない。

 一度、解除したあと、今度は分かるようにその辺に落ちてる石ころを上に投げたと同時に、同じように<タイム・ストップ>を発動させる。


「おー! 止まってる」


 重力とかの法則で、飛びながら落ちていくはずの石ころが空中でストップしていた。触ってみるも、ピクリとも動かない。

 しかし、大体5秒位経った頃かな? 時間が再び動き始めたようで、石ころは何事もなかったかのように、飛んでいったのだ。


「ふむ……現状は5秒くらいしか止められないって所かな?」


 時間停止能力とは書いたものの、細かい事までは考えてなかったから、勝手にこっちの世界に適応する能力になったのかな?


 まあ、良いか。5秒もあれば結構違うだろうし。取り敢えず次に書いた能力の確認をしようか。

 そんなこんなでわたしは設定した自分の能力について、色々と確認したりするのだった。


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