第2話 与えられたチャンス
そういうわけで自分の現状に疑問を抱きながら、箱舟的なソレにアレして全部を運び終え、二日目終了。
赤ちゃんの面倒をみながら、夜を明かした。
あ、ちなみに赤ちゃんの種族はなんかこの世界の獣人に該当する生物らしい。
生命力が高いのが特徴だとか。
へー。
ミルクとか食べ物とかどうしてんの?
て、思ってたら幼女先輩が邪神パワー的なそれで全部つくってた。
ぱねぇ。
二日目の夜。
すやすや眠る悪役令嬢ちゃんは、合言葉みたいな事呟いてた「カギはどこ。カギは」とか。
えーっと、それって確かゲームの中の鍵探しイベントか?
悪役令嬢が意地悪してヒロインをどっかに閉じ込めて、攻略対象がカギを探していくとかいう。
それが原因で、ヒロインは高熱を出して命が危なくなるんだよな。
ひょっとして夢の中で探してるのか?
俺は幼女悪役令嬢ちゃんが彷徨わせている手を、握った。
カギでも見つかった夢を見てるんかな。
そのの表情が和らぐ。
この幼女ちゃん、子供のころに自分がされて嫌だった事をヒロインちゃんにやり返してるんだよな。
昔はヒロインちゃんが悪役令嬢ちゃんを助け出してた。
でも成長した時は、悪役令嬢ちゃんが闇落ちして、攻略対象がヒロインを助ける側に。
それを見ていた悪役令嬢ちゃんは、どんな気持ちだったんだろうな。
うすうすゲームでやってた時から知ってたけど、この子は、親から愛された事がない子なんだ。
だから、愛の扱い方がへたなんだ。
それで初めて抱いた愛の感情にふりまわされて、のぞまない袋小路にとびこんでしまった。
本当は、ヒロインちゃんや攻略対象達と仲良くしたかったはずなのに。
人間関係って、ややこしいよな。
親友と同じ人を好きになっただけで、こうまでこじれるんかね。
そんで三日目の朝。
おはよう諸君。
さわやかな朝だよ。
絶望の朝でもあるが。
世界滅亡、秒読みだ。
さらに幼女幼女してバブちゃんになった幼女悪役令嬢ちゃんは、見覚えのない物を持っていた。
十字架のネックレスだ。
赤ちゃんだから喋れないので、思念の魔法で会話してくれる。
『ずっと前に、皆が私の誕生日を祝ってくれた。その時に送ってくれたもの』
ずっと持ってたんだな。
そう言って、幼女悪役令嬢ちゃんは皆の名前を順番に挙げていった。
攻略対象1、ヒロイン、攻略対象2、攻略対象3の順番だな。
さては、一番目の攻略対象が好きな子だな!
バレバレだぞう!
『暴れた時に壊しちゃったから、これは偽物だけど』
あ、作り直した物なんだ。
そんなになるんだったら、どうして暴れたりなんかしたんだって聞くのは酷か……。
バッドエンドだったんだから、ヒロインも攻略対象も何かしら努力が足りなかったせいだって言えばそれだけだけど。
『愛情ってどうして奪い合わなくちゃいけないんだろう。どうして、人を殺したり壊したりするものが、こんなに大切なんだろう』
きっと、俺の知らない思い出がたくさんあるんだろうな。
横で聞いてる分だけじゃ想像できないくらいに。
「俺も分からん。でも、こうやって思い直したりすることもできるから大切なんじゃね?」
当たり障りのない事しか言えなくて、ごめんよ、幼女ちゃん。
幼女悪役令嬢ちゃんは、『そっか』と思念。そして『大切だった。あの日々が。たくさん愛してたから、たくさん憎んだ』
でも、これだけは分かる。
反省にどうやら三日もいらなかったようだ。
「俺、実は神様に会って来たんだわ」
『?』
突然のカミングアウトにきょとんとする悪役令嬢ちゃん。
まあ、そんな反応だよね。
「こいつがひどいのなんの、転生処理雑いし、上から目線だしで。でも、この世界の事すごく心配してた。お願いしますって、最後言ってたの聞こえちまったんだよね」
びっくり仰天からの、新しい第二の人生スタート。
でも、期限は三日だけどって言った後、心配そうな顔をして言ってたんだ。
「ひどい世界になってしまったけど。あの子が反省するなら……」
って。
それって、また悪役令嬢ちゃんにチャンスをあげたいって事じゃねーの?
神様はさ、愛があるから。
人に時々ひどい運命を用意するのかもしれないけど、その分間違えてもチャンスを与えてくれる時がきっとあるんだよ。
俺は幼女悪役令嬢ちゃんの頭に手を置いた。なでなで。
「気づけたの良かったな、大切なもの」
悪役令嬢ちゃんは思いっきり目を潤ませて、ずびっと鼻をすすった。
三日目の夜。
船を浮かべて、空へ飛び立つ。
世界は壊れたようだ。
邪神が暴れた影響って、時差でもあるんかね?
なんか粉々になったよ。
目の前で。
惑 星 粉 砕!
こわっ。
俺達がいたら、一緒にこなごなじゃん。
まじで世界滅亡したよ。
トラウマになるわこんなもん。
箱舟の中から、見つめている悪役令嬢ちゃんは『ごめんなさい』って言った後、俺に『ありがとう』って言って来た。
だから、俺はその頭をなでて、気休めを口にする。
「あー、きっとこれは、たぶん長い夢だ。目が覚めたら何もかも元通りで、きっと大好きな人達もまだ目の前にいてくれる。やりなおせる。だから次は間違えんなよ。な?」
そう言って、俺達はその夜、他愛もない話をして夜を明かした。
自分が言った通りになるなんて確信はなかったけど、見てるんならそれくらい気をきかせろよ。みたいな感じで女神さまに念を送っといたから。
まあ、運が良ければ、何とかなるんじゃね。
その場合の俺がどうなるかは、うーん。分からん。
眠っているエルフの少年を見つめた私は、最後の力を振り絞って船のエネルギーを作り出した。
これで私の命は消える。
でも、後悔はなかった。
最後に一人でなくてよかった。
彼がいたから、心に余裕をもてた、罪を振り返る事ができた。
そしてたくさんの過ちを償う機会を与えてもらったのだから。
怖い夢を見た。
とても怖い夢を。
大好きな人達がいなくなって、世界すらも砕けてしまう夢だ。
きっとそれは嫉妬に狂った私への罰だったのだろう。
それは、大好きな人達に抱く感情の源が、大好きだからだってことを忘れてしまった私への罰にちがいない。
目覚めた私は、支度をして家を出た。
いつもより心が晴れやか、でもいつもより怖くて臆病。
だけど、そんな気持ちを大切にしたい。
あの場所へ向かった私は、小さな頃から親友だった彼女を見つける。
他の生徒に声をかけて、意地悪をされていた。
突き飛ばされた彼女が尻もちをつく。
昨日までの私だったら、同じようにしていたかもしれない。
でも、私は。
怖気づきそうになる私の背後で、男子生徒がつぶやいた。
「大好きだったんなら、勇気を出して変わらなくちゃな」
うん。
そうだ。
思い出したんだ。
なら、迷う必要なんてない。
首に下げた十字架のネックレスを、ぎゅっと握って勇気をもらう。
もう、大丈夫。
そう思って、私は親友だった彼女に近寄って手を差し伸べた。
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