~承前啓後~
そして時間は戻り、現在の文化祭。料理部部長となったエミリカはウキウキと宇野の手を引っ張っていた。
あの時は震えていた手だが、今は料理部の実績と自信がそうはさせない。
そして、今度は逃がさないようにナスビもしっかりと彼の手を握り絞っていた。限界まで!
宇野は腕の痛みに耐えつつ、額と背中にイヤな汗を浮かべながら歩を進めている。
両手を美少女二人に取られている彼だが、表情は牢獄に連れられる罪人のような暗い顔であった。
宇野はエミリカが去年の文化祭で出会った女子であると、薄々ではあるが気付き、思い出し始めていた。
去年と比べ、エミリカはずいぶんと自信に溢れる姿になった。女の子として一年でずいぶんと成長したのもある。おかげで、記憶は虚ろであったが、文化祭で彼女と言葉を交わし、行動を供にする内に、段々と思い出してきていた。
そして、ようやく今、彼の脳内には去年の出来事が鮮明に思い出されていた。
去年も依頼を果たすのに忙しい文化祭であった。
だがその最後、後夜祭に一人の女子が訪れた。宇野はその子が感謝して、ねぎらいに自身の好物である唐揚げを用意してくれていたのだと思っていた。
だが、エミリカからの唐揚げを一つ口に入れた途端、彼の口腔内に火が出るような衝撃が襲った。
その唐揚げは・・・激辛を通り越した辛さ、もはや痛覚を刺激するしかない強烈なものであったのだ。
すぐさまに宇野は給水器へと走り出したのである。
去年のあれは一体なんだったのか?嫌がらせだろうか?
ただ、他の唐揚げを恐る恐る口に入れるも、それらは普通に美味しかった。
ただのお茶目か?まさか去年と同様、同じような唐揚げを食べさせる気ではないのだろうか?
そういえば今年も料理部は『唐揚げ定食』なるものを出しているようであった。
これだから宇野は料理部に足を運ぶのを頑なに拒否していたのだった。
果たして、まともな料理が出てくるのだろうか?
宇野の足取りはとても重たかった。
エミリカ、宇野、ナスビの三人はそれぞれ嬉しさ、不安、期待、三者三様に思いを巡らせ、廊下を進んでいく。
そして、そんな三人の姿を、後ろから見守る美女がいた。
高校生となった麗華である。
彼女は鹿児東高校の生徒で、ボランティアとしてここに来ていた。
そんな彼女も、去年の文化祭のことを思い出していた・・・
それは後夜祭の時である。麗華は調理室の調理台で何かを探していた・・・
「あれぇ?ないわねぇ?」
「何を探しているの?」
さとりんに問われ、麗華は答える。
「メガンテ唐揚げ・・・」
「一応聞くわ・・・なにそれ?」
「ウチ用に作った激辛唐揚げよ~、別名『メガザルロック』・・・もう、どこにいったのかしら?」
「このパルプンテ料理人、なんてもの作ってるのよ・・・」
「・・・そういえば」と言葉を挟む風。
「・・・一つエミリカが持って行ったけど・・・焦っていたし・・・取り間違えたのかも・・・」
『あっ!』
あの時、麗華はエミリカに嫌われるのがイヤで言い出せなかったが、今はこうして宇野と仲良く手を組んで歩いている。
「結果良ければ全て良しね!」
そうして、妹の背中を遠目に麗華は文化祭で賑わう人々の中へ入っていったのであった。
完!
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