~優勝劣敗~
体育館の舞台では吹奏楽部とダンス部によるフィナーレのラストパフォーマンスが行われていた。
体育館ではパイプ椅子が並べられ、全校生徒千人と来客数百に及ぶ人数が押し込まれたかのように席に着き、ギュウギュウにひしめき合う。皆、舞台を見上げている。
生徒の並びは、部で演劇といったパフォーマンスや出店を行ったグループが最前列で並び、中列はそれ以外、つまりクラスで催しを行ったグループに別けられていた。後列は来客席となる。
なので料理部は最前列、そして家庭科部は隣の列にいた。
その家庭科部の部長、堤下梅子が勝ち誇ったかのように麗華に言う。
「私たちの料理の売り上げ聞いた?聞いてるわよね?歴代トップらしいわよ?ごめんなさいね?料理部さん」
それを耳にした麗華は唇をかみしめる。されど目元だけで笑顔を作って、
「お、おめでとうね、料理部さん・・・あなたたちの方が有能だったようね、後輩をよろしく頼むわ」
努めて冷静に言う。その反応に梅子はどこかつまらなそうにする。
「あら、そう。ま、分かってもらえればいいの。夏には引退するけどそれまでに私のやり方を後輩に引き継いでもらうわ。ま、卒業してもちょっとは家庭科部の元部長として顔をだしてあげるし」
「それが不安なのよ・・・」
「何か言った?」
「いいえ、何も?ほら、ダンス終わったわよ」
そこで二人は話し終え、次に出し物の優秀部門の発表に移る。
と、その時であった。
一人の教師が梅子の肩を後ろから叩く。
「君、料理部部長の梅子さんだよね?ちょっと来てもらっていいかな?」
「あ、はい!」
教師が体育館の後ろへ歩いていく。梅子は嬉しそうに立ち上がる。
「表彰者の代表はこうやって教師に呼ばれて袖に移動するのかしらね?それじゃあ、麗華、ちょっと表彰されてくるわ」
梅子は鼻を鳴らして教師の後を追う。
料理部のメンバーは恨めしくその背中を見ていた。
ただ、エミリカを除いて・・・
『パフォーマンス部門、投票数第一位は・・・女子新体操部による、空中ブランコ=幻の大技!でした!』
アナウンスの後、歓声が上がる。新体操部の女子部員は抱き合って喜びを分かち合っていた。
『続きまして、屋台、食品部門の売り上げTOP3の発表に移ります。第三位・・・茶道部による、抹茶と手作り和菓子!』
キャーキャーと、茶道部が飛び跳ねて喜ぶ。
『第二位は・・・料理部による、唐揚げとおにぎり!』
「やったわね!みんな、二位よ!」
麗華が嬉しそうに振り返る。彼女の後ろに座るさとりんと風がそれに頷く。
「そうねぇ!みんながんばったものね!」
「・・・初参加で二位はすごいと思う。みんなのチームワークが良かった」
笑顔で言う三人。しかしナスビは素直に喜べなかった。
「せやけど・・・家庭科部に負けたんやなぁ」
悔やむナスビ、しかしそれでも三年生であるさとりんと風、そして麗華の三人は笑顔を絶やさなかった。
「大丈夫よ、エミリカちゃんとナスビちゃんの二人なら、家庭科部と合併しても上手くやっていけるわ」
「・・・今回の経験がきっと助けとなる」
「そうよ!里香、ナスビ、胸を張りなさい。あなたが次世代の道標となるのよ!なにかあれば、ウチらが助けになるから!」
「・・・はいっ」
ナスビは三人の優しさに、目に涙を浮かばせた。エミリカはそれを黙って見守る。
そして、アナウンスが流れる。
『そして、第一位は・・・・・・陸上部、スムージー店!』
陸上部の割れんばかりの歓声っ!もはや雄叫び!そして彼らを包むのは大きな拍手であった。
ただ、どよめく声もあった。
「え、なんで?私たち家庭科部は?」
家庭科部の女子部員の一人が戸惑う。
それはもちろん料理部もそうであった。
「えっ?あれどういうこと?さとりん」
「わ、わからないわ、麗華。家庭科部が売り上げじゃ一位のはずだけど?」
「・・・どういうこと?計算ミス?」
理解できないのは彼女達だけではなかった。屋台を行っていた他のグループも当然、家庭科部の売り上げを知っていたし、一位だと思っていた。
そのどよめきは他の生徒にも波及し、根拠のない憶測や噂が体育館中に広がり始める。
ナスビは隣に座るエミリカに聞く。
「な、なぁ、これ、どないなっとるん?」
エミリカはその問いに答えようか悩んでいると、代わりに答えるかのようにアナウンスが流れる。
『はい、ええと・・・ただ今入った情報によると・・・どうにも上位の屋台を出していたグループがあったようですが、予算以上の出費・・・もしくは外部からの支援・・・でしょうか?それらが認められたため、屋台の売り上げを競合するには公平でないとして、急きょ外させてもらったグループがあったようです。ご理解ください』
そのアナウンスから生徒たちは察したのかどよめきが収まりを見せた。
『続きまして、屋台、遊戯部門・・・・・・』
文化祭の閉会式が終わり、各々は片付けに入る。
料理部も中庭にて屋台を片付けはじめていた。
その時に料理部は見回りに来ていた生徒会長のカインドマンから家庭科部で何があったのかを聞いた。
家庭科部の部長、堤下梅子は教師に呼び出された後、生徒指導室に通され、事情聴取を受けたようであった。
最初は白を切る梅子であったが、証拠の冷凍食品のJANコードを差し出され、その上で家の者に確認の連絡をしようとすると、梅子は観念したのか自供したのだと言う。
「提供された食品はやはり、冷凍食品で、自宅の親御さんが購入したものを店で提供していたそうだ。売り上げの評価は取り消しで、厳重注意だね。家庭科部は今、注意を受けているよ」
カインドマンからの説明で料理部の皆は呆れかえっていた。特に麗華は椅子にヒザを組んで座り、テーブルに肘を置いて悪態をつく。
「やっぱり、あいつは信用ならないのよ。でもま、これで料理部の平和は守られたのだー」
「そうねぇ、ありがとうね。優男君、あなたのおかげで私たちは自信を持って部活が続けられるわ」
さとりんに言われ、生徒会長のカインドマンは照れる。
「いや、まぁ、生徒会としてだね、その、予算の超過違反は許せないわけであって、でも鈴(りん)ちゃんの笑顔もその、ま、守りたくて、というか」
「・・・さっさとチュウしなよ」
「な、なに言ってるのよ!風っ!」
「せやぁ、生徒会長がここまでガンバってくれたのに、ごほうびナシなんて生殺しやでぇ~」
「ナスビちゃんまでっ!」
「い、いや、その、ここでは、ちょっと・・・別の場所でいいかい?」
「いや、ここじゃなくてもみんなの前でしないからねっ!優男君っ!」
「ははっ、そうだよね、鈴ちゃん。まぁ、それに今回のガンバりは私だけのものでもないよ。彼にはかなり働いてもらった」
「会長の言う彼って、もしかして『何でも屋』ね?」
「その通りだよ麗華さん。彼がとっておきの証拠を見つけたんだ。だが、彼にも協力者がいたそうなんだ・・・女の子らしいんだよ、是非ともその子にお礼が言いたいのだけど・・・心当たりはあるかい?」
カインドマンに言われ、皆は顔を見合わせる。麗華はそこであることに気が付く。
「あれっ?そういえば里香は?」
「エミリカちゃん?そういえば残った唐揚げを持ってどこかに走って行ったわねぇ。どっち行ったか分かる?風」
「・・・あの方向は運動場」
「そういうたら、もうすぐ後夜祭が始まるやんなぁ。誰かに唐揚げを渡しに行ったんやろか?」
「あら、里香ってばいったい誰に持って行ったのかしら?それに・・・もしかして、そのお相手とキャンプファイヤーで踊る気なんじゃっ!」
「あらぁ、麗華、妹を盗られちゃったわねぇ」
「・・・エミリカも巣立ちの年頃」
「なんやぁ、エミリンめ、親友の自分に相談せずに抜け駆けかいな~。みんなで一緒に踊る約束しとったのにぃ~」
料理部の女子たちが色恋話に夢中となり、置いて行かれたカインドマンは苦笑し、運動場の方角を見る。
「ガンバってね、エミリカさん。彼は察しが良いくせに、相手の心の変化には無頓着だ。かなり手ごわい相手だよ」
彼はそう言い残し、その場から去っていった。
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