第五話 瞬間移動

〜箱人 技紹介のコーナー 〜


*新しい技が出る度に次回の冒頭に詳細を記載していこうと思います。


●星乃優希 箱:水を操る弓


『ドルフィンアロー』

 空中に打った矢に水を纏わせイルカの形にする技。体長は2メートル程で空中を自由自在に泳ぐことが出来、相手にぶつけて攻撃する。水で出来たイルカである為、中に入り込むことも可能。そのまま空中を泳がせることも出来る。但し、水である為、長時間入っていると当然溺れてしまう。



『ウォーターレイ』

 水を矢に溜めて、ビームのように放つ技。その威力は凄まじく、ウォータージェットのように金属をも貫く。但し、溜めが必要で隙が生じること、矢先程の大きさで直径約1㎝の細い攻撃である為、回避されやすいことが弱点にある。



本編

  

 鴉羽はカエルが怯んでいる内に素早く星乃の元へ移動した。

 

 (箱憑きが居ると言うのに向かって行ったのでまさかとは思ったけど、やっぱり星乃さんも箱人だったんだな……)


 「鴉羽くんどうしてここに… それにその刀はまさか…」


 「ああ、俺も箱人だ。そして君を助けに来た。安心して、女の子は安全な場所に避難させたし、騎士にも連絡を取った。じきに援軍として駆けつけてくれる筈だ」


 鴉羽は星乃に絡みつく粘液の糸を切ろうと掴んだ。しかし、糸は丈夫でいくら引っ張っても切れない。


 (星乃さんだけでも逃したかったが厄介だな……)

 

  刀で切ることも考えたが慎重にやらないと星乃まで傷つけてしまう。


 「この糸はあの箱憑きの力か。だったらあいつを倒してしまえば」


 鴉羽は目の痛みで暴れているカエルに刀を構える。


 「待って鴉羽くん! 戦って分かったけどあの箱憑きは恐らく危険度Bランク以上はあると思う。騎士が駆けつけるまで戦うべきではないよ!」


 箱憑きはその強さや、被害状況によってDランクからSランクまで区分けされており、その危険度によって対処する騎士も異なってくる。Bランク以上は基本、騎士が複数人で当たるレベルだ。


 「私は大丈夫だから、鴉羽くんは逃げて……」

 

 星乃は振り絞るように言う、その体は恐怖で震えていた。


「だったら尚更、こんな状態の君を置いて逃げるわけには行かないよ。会ったばかりで難しいかもしれないけど、どうか俺に任せて欲しい」


 「どうしてあなたは…」


 「君には授業中起こして貰ったしな」


 (それに力になるって約束したしな……)


 心の中で笹原との約束を思い出し、正気を取り戻したカエルと相対する。その様子に星乃はようやく観念した。


 「分かった… でもお願い…絶対に死なないで…」


 「ああ」


 鴉羽は刀から黒い闘気のようなものを出し、刀の先を地面に置いた。黒い闘気が刀を伝って地面に移動し、5つに分かれた。

 

 ー来い! 『黒人形』


 地面に置かれた5つの黒い闘気が突然変形し、人間の形を作り始めた。そして、人間の姿をした真っ黒な人形が5体誕生した。唯一手だけが違っており、腕から先が鋭い鎌のようになっている。出来た人形の内4体がいきなりカエルに向かって走り出した。


 カエルは向かってくる人形の内1体を舌で攻撃した。

その攻撃を人形は素早く移動して回避し、カエルは瞬く間に4体の人形に取り囲まれた。そして、すぐさま4方向からカエルの両手両足を腕の鎌で斬りつけたのだった。しかし、鎌は見た目の割に切れ味が悪いのか、威力が弱いのか、カエルの手足を切ることが出来ず、皮膚に弾かれてしまった。


 そのことに気づいたカエルは手足にまとわりつく人形を放置し、奥に居る鴉羽自身に舌を飛ばした。鴉羽が手元に残した人形が前に立ち、鴉羽を庇おうとしたが舌の勢いが凄まじく貫通した。


 「鴉羽くん!」


 カエルは手応えを感じたのか不気味に笑っているような顔をした。

 

 「何を笑っているんだ?」


 カエルが気づいた頃には既に遅かった。

 鴉羽はいつの間にかカエルの手元まで移動しており、刀でカエルの左腕を深々と刺していた。

 

 刀を突き刺された痛みでカエルは僅かに怯む。そして手元に居た鴉羽に反撃しようと試みた時には、既に鴉羽の姿はそこになかった。


 「こっちだ」


 鴉羽は既に背後のカエルの足下に居た。そしてカエルの両足を深く斬りつけた。カエルは痛みで絶叫しながらも、今度は素早く舌を飛ばし、自分の体に沿って曲げて、裏にいる鴉羽を攻撃した。鴉羽は素早く後ろに下がり距離を取って回避する。カエルは体を引きずりながらも反転し、離れた鴉羽を睨んだ。


 (手足を斬りつけた。これで簡単には動けない)


 鴉羽の元にカエルのそばに居た3体の人形が戻って来た。そしてその内2体を黒い闘気の姿を戻し、刀に吸い込ませた。


 「これで終わりだ!」


 刀に吸い込まれた闘気が今度は刀から持ち手である右手までを覆い始めた。そして右腕から刀までが巨大な真っ黒な腕のように変化した。腕の先は三股に分かれ鳥の足のようになっており、その先に鋭く、巨大な鉤爪が3つ付いていた。


 『〜纏〜 八咫烏』


 巨大な腕は禍々しいオーラを放っており、それを向けられたカエルは思わず身がすくむ。


 「終わりだ」


 鴉羽は巨大な腕を纏ったまま、カエルに向かって一直線に走り出した。カエルは恐怖と手足の激痛でまともに動けない。しかし、カエルは向かって来る鴉羽に対し、力を振り絞って、長広範囲に網状にした粘液の糸を吐き出した。


 (なるほど考えたな。目で動きを捉えられないならば広範囲に技を打って、見えなくても俺を網に引っ掛けられるようにしたか。 だが…)


 そこに鴉羽の姿はなく、こちらに注目している内にカエルの背後にこっそり回っていた最後の人形の体の中から巨大な腕と共に鴉羽が出てきていた。


 「悪いな。俺は超高速で移動をしていたわけじゃない。人形同士の空間を繋いで瞬間移動をしていただけだ」


 背後を取られたカエルはなす術もなく、鴉羽の巨大な鉤爪に身を貫かれ、そして引き裂かれ、ピクリとも動かなくなった。


 

 

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