一日デートが出来ちゃうよ券

Rin

第1話

「芥川君、買い出しをお願いしたいのだが……」

 突然、僕の携帯電話が鳴り、しばらく会っていなかった我が師から電話があった。

「太宰さん!買い出し位でしたら僕が承ります」

 太宰さんから買い出しの内容を聞いて、今日は有休をとっていた事もあり、即座にスーパーやホームセンターに向かった。太宰さんに頼まれたトイレットペーパーやお菓子、文房具など仕事に関係する買い出しの内容な気がする。彼がポートマフィアにいた頃も仕事で使う物の買い出しをよく頼まれたものだと思い出した。

 ポートマフィアを抜け出して探偵社に転職した彼は人が変わったように明るくなった。織田作が亡くなった時はとても悲しげな顔をしていたのを覚えている。

 彼が笑っていてくれるのならば、敵対する組織にいたとしてもそれでいいと僕は思っていた。

 全ての買い出しが終わり、羅生門を使いながらレジ袋を持ち、彼に指定された場所に着いた。港に近い公園で観光客が訪れる薔薇が咲き乱れる公園のベンチにぽつんと人虎が座っていた。

「何故、お前がここにいるのだ?」

「ゲッ、芥川? お前こそ何でここに? 僕は太宰さんにここで待っていろと言われただけで……。ってそのレジ袋、どうしたんだよ。」

 彼は心底嫌そうな顔をすると僕の羅生門で吊るされているレジ袋をしげしげと見つめた。「これって太宰さんが国木田さんと乱歩さんに頼まれていた買い出しじゃないか? 太宰さん、また仕事サボったんだ。はぁ……」

「……それは誠か? 人虎。」

「そうだよ。太宰さん、また入水ごっごをしているのかもな。太宰さんに荷物を持ってきた人に渡すように云われていたんだ。これ」

 人虎が差し出したのは、一通の封筒。人虎に沢山のレジ袋を渡し、封筒の口を羅生門で素早く切った。

 太宰さんからの手紙!嬉しくて僕はすぐに中を取り出した。中から出てきたのは一日デートが出来ちゃうよ券と太宰さんの字で書かれた券だった。

「一日デートが出来ちゃうよ券……使用は一回のみ。有効期限は今月までか」

「やっぱり、太宰さんと芥川ってそういう関係だったのか……。兎に角、買い出し、ありがとうな」

 人虎はレジ袋を持って帰って行った。

 人虎が立ち去ったのを見て、すぐさま太宰さんの携帯に電話する。

「太宰さん!その……一日デートが出来ちゃうよ券についてなのですが……」

「じゃぁ、これからデートしようか?」

 後ろから太宰さんの声がして振り返ると太宰さんが微笑みながら立っていた。

「買い出し、ありがとう。さぁ、行こうか」

 彼がそっと手を差し出し、手を握られる。

「承知しました!」

 僕は彼の手を握り締め、彼と共にデートに出かけた。

「最近、君に会えていなかったから、君の顔を見たかったからね。今日は一日、ゆっくりデートをしよう。国木田君には内緒でね!うふふふ」

 そう云って、いたずらっぽく笑う彼はポートマフィアで苦しんでいた時とは違う明るさがある。そんな明るくなった彼の姿を見て安堵する自分がいた。


 終わり


(※お借りしたもの、創作向けお題bot @utislove)

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