四章 獅子騙し/怒れた吸血鬼 その3

「いや、黄金ないんだけど東武国ー!」

 東武国の森を冒険者の剣士が突然叫んだ。

「諦めんな! 根性で見つけるぜ!」

 パーティメンバーの格闘家が剣士を励ます。

「……朝からうるさい。」

 同じくパーティメンバーの女神官がコメントをする。

 宮地 蛇光がメリゴールから姿を消して、何ヶ月経っただろうか? 東武国には侍大蛇の財宝が眠るという根も葉もない噂を信じて海を越え、多くの冒険者や英雄がやってきた。彼らも数ある一行の一つである。

「やっぱよう…」

 格闘家が物申す。

「蛇光を愛する国民が在処知ってんじゃね?」

「……確証のないことは言わない方がいいと思うわ。」

 女神官がコメントをする。続いて剣士が物申す。

「んん〜、よし。ちょっと強めに誰かに質問して…」

「つまり脅しか?」

「ベールに包めよ、筋トレマニア! ……あれ?」

(急に…寒気が、鳥肌が!)

 剣士は空気が変わったことに気づいた。格闘家も拳を握りしめて、女神官も杖で構えた。

(きょ…恐怖が辺りを埋め尽くしている。とても怖いわ。)

 女神官がそう思っていると、突然ある音が前から聞こえた。

タッタ、タタッタ、タッタ、タタッタ。

(リズミカルな……足跡?)

 その音はしばらく続いた。だが、突然病んだ。その違和感に剣士は思わず声を出す。

「なんだ、今のは、一体…」

「ハグ好きご機嫌バディ、括正ちゃん登場っ!」

 後ろから声がした。

「「うわあああ!」」

 びびって振り向いて、後退りする男二人。

「きゃああ!」

 悲鳴をあげながら、振り向いて震えながら後退りする女性。剣士は剣を構える。

(全く後ろにいることに気づかなかった! いや前にいたけど、寒気を出して陽動されたんだ! 全身和装の黒づくめに黒いターバンにやや茶色い肌、若そうだがアゴひげを生やしてる……丸腰だが不気味な、まるで死神!)

「お前、なにもんだ⁉︎」

 剣士は目の前の御人に質問する。括正は笑顔で語り始める。

「目は見るためにあって、口はしゃべるためにある。」

「お前何言ってんだ?」

 格闘家がツッコミを入れると、括正はしーっのジェスチャーをした。

「まだ途中だから。邪魔しないで。手は何かを掴むためにあって、足は歩むためにある。鼻は匂いを嗅ぐためにある。そんな君は美しい花だね、お嬢さん。」

 括正は突然、女神官と目を合わせた。

「あっ、ありがとう。」

「まだ途中だから。邪魔しないでね。」

((いや、こいつに話しかけたのお前ええ‼︎))

「ご、ごめんなさい。」

((お前もお前で、何で謝んの⁉︎))

「えー、陰茎は…」

「「おい辞めろ! 女の子がいるんだぞ!」」

 剣士と格闘家が括正の舌を遮るようにツッコんだ。

「……陰唇の方がよかった?」

「それ以上そういう方面は辞めろ! 調べたい奴は勝手に調べる!」

 格闘家が叫ぶと、剣士が優しく仲間の肩を叩いて、括正に要求する。

「あの、何が言いたいかはっきり言ってくれ。」

「要するに、耳があるんだから聞いてなかったのって話よ。名前括正って言ったんよ?」

「ああ…確かに。……体の部分のくだり必要だったか?」

「和んだでしょ?」

「「逆に疲れたわ‼︎」」

 男二人がツッコミを入れた。すると括正は突然目をキリッとした。

「単刀直入に言わせてもらう。この国には財宝も黄金もない。観光なら大歓迎で俺様ハッピー。だが強奪や略奪の類いは見逃せない。」

「へぇ〜、どう見逃さないんだ? 刀を忘れてきたお前が俺ら三人に勝てるのか、侍!」

 剣士はニヤけて剣を構えた。

「飛斬、王道!」

 青い飛ぶ斬撃が剣士の武器から解き放たれた。

「ああ、怖いよーん!」

 括正は向かってくる攻撃に対して両手を頬に当てた。

(なーんちゃって。)

「飛斬ちゃんに〜赤信号!」

 括正は右手をパーにして前に出した。三人の冒険者は驚愕した。

(お、俺の自慢の技が…奴の目の前で止まった。)

「丸になれ〜。」

 括正は言いながら念力を込めると、攻撃は球型のエネルギー弾になった。

「んん〜。」

 括正は手の上で浮かした玉をじっと見つめて、ふと閃く。

「リフティングチャレンジ〜。みんな応援してね〜。」

 三人は無言だった。

「はい、一…ニ…」

 三人は驚きと唖然で無言だった。

「四……五…」

 三人は無言だった。

「六…七…は、あっちくしょお、地面について消滅したー!」

 三人は無言だった。

「でもみんなの愛する括正ちゃん、な、な、な、なんと! 五回? いやいや。六回? いやいやいや。七回もリフティングに成功しましたー! すんごい! 偉い! 尊い! みんなパチパチ〜。」

 三人は拍手しなかった。

「パチパチ〜。」

 三人は無言のまま拍手をしなかった。

「パチパチって手を叩くことだよ〜。別名拍手だよ〜。パチパチ〜。」

 三人は拍手をしなかった。

「拍手しろよ〜!」

 シュッ! ドコォ!

「ガッ!」

 不機嫌になった括正は格闘家に急接近して、殴り飛ばした。女神官は冷や汗をかいた。

(嘘、私が魔力感知できなかった? ということは魔力なしであのスピード⁉︎ 一体何者?)

(ちくしょう、俺よりガタイの良いあいつをあっさりぶっ飛ばして、おまけに今までの態度がふざけ過ぎていて、突然の殺意に気づけなかった!)

「うわあー!」

 痛みと風の衝撃に格闘家は叫ぶ。女神官はびびって何もできなかった。一方剣士は震えながらも剣を括正の方に両手で剣を振り落とそうとした。

「うわあああ!」

(斬る!)

 ガシッ!

 括正は即座に片手で剣士の両手首を掴んだ。

(なんて握力なんだこいつ! しかもまるで誘導されたように俺の手首が奴の手元に!)

剣は自然と地面に落ちた。

「あっ、ああ。」

 剣士はそのまま括正に持ち上げられてしまった。ふと括正は空いてる手で剣士のアゴを触り始めた。

「なっ、貴様! 何をする⁉︎ 辞めろ!」

「君は生やさないの〜? 一緒に生やしてヒゲヒゲバディになろうよ〜。」

「誰が貴様なんぞと、お断りだ。」

「そっか〜。残念。」

 括正はそう言うとパッと彼を離して地面に座り込む剣士と立ったままの女神官を見下ろした。

「君たち〜。観光は楽しんでいいけど、意地悪はメッだよ〜。飛んでっちゃったお友達にもちゃんと注意しようね〜。」

 括正は笑顔に切り替えて言った。反応がないので真顔に戻る。

「返事は⁉︎」

「「はい!」」

「よろしい。バーイ!」

 括正は別れを告げると嵐のようにその場を去った。

「ふぅ〜。刀なしの念と拳頼りの戦闘も段々慣れてきたな〜。にしても野心丸出しの冒険者がどんどん東武国にくるな〜。しばらく東武国中を飛び回って忙しいけど、桃源先生からのノルマは無事クリアできそうだ。」

 まだまだ修行の身、頑張れ括正。

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