二章 時空の槍と新たな勇者の目覚め その6
(俺はこんなあっさり死ぬのか? 死ぬのか⁉ 死ぬのか⁉ 死ぬのか⁉ 死ぬのか⁉ 死ぬのか⁉ 死ぬのか⁉)
「うがあああ!」
止まっていたバルナバの時が動き出した。
「こんな死に方してたまるかあああ!」
バルナバの両腕は分断された顔の左右をがっと掴み、ぶしゅううっと無理やり頸にくっつけた。
「危ねえー。くそお接着しろ、接着。」
「だははは、流石人狼。見事な起死回生したな~。」
首を斬って刀を一旦鞘に納めた伸正は吹き出しながら、称賛した。
「ところで人狼ちゃん。」
「あぁ? なんだ?」
なんとか首をくっつけたバルナバは反応した。
「何を隠そう、これを訊くのは君で二回目だ。」
そう言いながら、伸正は二本の指を見せた。
「
伸正の質問に、バルナバはにやけて反応する。
「あんたこそ、いい人ぶって勇者にお近づきになり、隙あらば槍を奪おうって腹じゃねえのか?」
「面白い発想だが見事な不正解だ。身の丈に合わない力には僕は一切興味がない。」
「戸惑いのねえ即答かよ。善でも悪でも迷いのねえ奴は嫌いじゃねえ。素晴らしい。」
「そうかい? ありがとう。君が素晴らしいと判断してくれた僕の質問に答えてくれないかい?
伸正が再び質問すると、バルナバは腕を後ろに組んで、少し考えてから口を開けた。
「公儀を行い、誠実を愛し、へりくだって…」
「お前わざとべたな嘘並べてんな。お前の悪行の数々は知ってんだぞ、災狼。」
バルナバの返答に、伸正が割り込んだ。
(この狼ちゃんは平気で人を騙したり、嘘をつくタイプだな。あの正直なタコちゃんとはえらい違いだ。)
伸正がそう考え事をしていると、バルナバはニヤリと笑う。
「そうか……じゃあ、俺の多種多様な殺しのテクニックを知ってるか⁉」
そう言うと、バルナバはさっと隠していた右手を露わにした。伸正の体を少々の焦りが襲う。
(右手の肉球に風のエネルギーが圧縮されている?)
「俺がよく使う風の遠距離射撃型攻撃は肉球風撃ってやつなんだが、こいつは強化版だ!」
バルナバは腕を伸ばして、肉球を伸正の方に向ける。
「俺は狼で、この腕には災いが宿る、
フゥオオオオオオオ!
バルナバの肉球から莫大な風が解き放たれた。
(まずい!)
伸正は即座に刀を抜いた。
ガッ!
「へえ、やるなおっさん。風を捉えて刀で受け止めたか。」
バルナバが分析していると、ズズズと伸正の体は後方へ少しずつ下がっていた。
「だがおっさん、体はいつまで持つかな?」
この問いに対して伸正は黙っていたので、バルナバは話を続けることにした。
「この世界に守る価値なんてあるのか? あんたは俺より悲しみや怒り、命や愛の消失、その汁をすするクズや群がるクズや新たに生まれるクズを五万と視てきたんじゃねえのか? たった一人の勇者が誕生して何になる? あんたもあんただ。世界中を奔走して頑張っても何も変わらない、何も守れないって諦めてる自分もいるんじゃねーかー?」
「確かに君の言う通り、クズはどんな身分にもいるし、世界はすごく汚れているよ。でもね、そんなどうしようもない腐った世界でもさ……花は咲いて、植物は実るんだ。人は喜びだって覚えられるんだ。怪人だって愛と勇気を武器にして戦えるんだ。そういうことを目にする度に思うよ。この世界は棄てたもんじゃないって。」
ギギギ、ピカーン!
伸正は刀でしなやかに風圧を上空に弾いた。
「棄てたもんじゃねえって思えたから、守りたいって決めたのさ!」
伸正はそう言うと、刀をぐっと構えた。
「飛斬 “冷徹な野犬”。」
伸正は柔らかく片手で横にスッと一振り、すると青白く細長い衝撃波が刀より解き放たれた。
スパッ!
「えっ? あああああああ!」
腹を基盤に真っ二つに分かれたバルナバは悲鳴を上げた。
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