二章 時空の槍と新たな勇者の目覚め その4
伸正とリジーが追いかけっこをしてしばらくの新しくできた森の道の途中のことだ。
「ハァ、ハァ…」
地面に座り込んだ伸正の目の前で、リジー・ランスは立ったまま両膝に両手を置いて息を切らしていた。
(……ちょっとペース上げすぎちゃったかな。大人げない自分反省。テヘペロ。)
「素晴らしい意志だ。だが実力がなければ何も成せない。」
伸正は淡々と話すと、リジーは首をあげた。
「ハァ、ハァ…え?」
リジーが戸惑うと、伸正は立ち上がり一礼をする。
「嘘をついてすまなかった。君を試したかったんだ。」
伸正はそう言って、自分の胸元に手を充てた。
「僕は岩本 伸正。愛と勇気を奏でる界牧者さ。」
「……騙されるもんか。あなたはさっき自分で悪党と…」
「僕が君の想像通りの大悪党だったら、君はもう既に僕に殺されている。違うかい?」
リジーは言い返せなかった。伸正は優しく自分の右手をリジーの右肩に置いた。
「まあそんなに気に病むことはないよ。無鉄砲は運命を切り拓く鍵になる場合もある。」
伸正はそう言うと、走ってきた道の反対を示した。
「道を抜けたら、太陽が明るく照らす草原だ。僕についてきてくれないかい?」
伸正はそう言うと、二人はその日の当たる場所へと歩き出した。草原の周りは森で囲まれていたが、その一帯の真ん中には柄が赤く石突が金色の十文字槍が地面に刺さっていた。
「リジーちゃん、見てなさい!」
伸正はそう指示すると、タタタっと槍に近づいた。だが掴もうとした瞬間、槍が放った一瞬の眩い光で、伸正は後ろにぶっ飛ばされた。
「おっとっと。」
伸正は華麗に着地すると、即座にリジーの方に目を向けた。
「さあ、君はどうしたい? 返事より行動で示してくれたまえ。」
リジー・ランスはごくりと唾を飲むと、一歩一歩ゆっくり重みを込めて槍に向かって歩き出した。
(何故だかわからないけど、確かな事実。槍が私を呼んでいる!)
リジーの直感が彼女自身に訴えかけていた。やがて槍を掴める距離まで近づいた。そぉーっとリジーは槍を掴んだ。何も起きなかった。リジーは両手ですぽっと地面から槍を抜いた。伸正は心の中で歓喜したが、何も起きなかった。突然リジーは、衝動的に勢いよく槍の穂先を天に掲げた。すると十文字の両翼の刃から白い煙が発生して雲の柱が槍の上に誕生した。
「うわああ!」
慌てたリジーは穂先の向きを下に降ろした。伸正はゆっくりリジーに近づいた。
「突然のことで気が動転しただろう。無理もないさ。君は今日とてつもない力を手にいれたのだから。」
伸正はそう告げると、リジーは当然の疑問をぶつける。
「この槍は何なの? 私は何を手に入れたの?」
「遥か昔、父なる時は矢と成り未来へと解き放たれた。しかし時間という道は栄光の架け橋から程遠い、綻びだらけの迷宮修羅。それがこの世界だ。」
伸正はそう言いながら、両手を広げた。リジーは黙って真剣に聞いていた。
「その槍はあらゆる時代や場所に度々発生する綻びに対する人の子の切り札、運命を握る聖なる槍-
伸正はスッと槍を指すと、リジーはある疑問が浮かんだ。
「さっき伸正さんがこの…
「拒む、ははっ、素晴らしい。君にはそう視えたんだね。正解だ。
「今は?」
「今彼女の意志は理想の持ち主が再び見つかって満足だから、持ち主が完全にいない状態になるまで眠り続けるだろう。つまり君の手から奪われる可能性だって充分にあるということだ。それは世界のためにも避けるべき事態だ。戦わない時は念術で自空間に保管しとくことをお勧めするよ。」
伸正のアドバイスにリジーはまたもや疑問を抱く。
「念術? それは何?」
「念術は己や周りの念力を利用して使う、超自然的な技だ。純なる魔法と呼ぶ者もいるね。魔術寄りの魔法が高度で法則的なのに対して、念術はシンプルで変則的だ。」
伸正は説明すると、適当な方向に腕を伸ばした。
「パララ、ぱっぱら~!」
伸正の腕の方向にあった木の枝から何本かパッパッパッっと花が咲いた。リジーはその光景を信じられなかった。
「つぼみは元々隠れていた。僕は花が見たかったから、“背中”をちょっと押しただけ。」
伸正はそう言って再びリジーの方を向くと、リジーはじっと両手にある槍を見つめていた。すると、伸正の方と目を合わせて槍を差し出した。
「伸正さん、あなたはは強いし、頭が切れる。あなたが断言したようにこの槍の意志が眠っていてあなたが望むのなら、あなたに差し上げましょう。」
リジーがそう宣言すると、しばらくの沈黙が流れた。伸正は一瞬驚いてしまったからだ。
「ははっ、こいつは驚いた。僕が君を試すつもりが、逆に試されるとはね~? んん~いらないかな~。」
そう言うと、伸正は自身の心臓に手を置いた。
「僕がそれを手に入れたら、今まで手に入れたものや失ったものに背を向けてしまう…そんな気がするんだ。」
伸正はそう悟ると、突然はっと上を向いた。
「
「え? あの、どういう…」
「危機は見ればわかる。君の英雄としての最初の試練だ。君に今必要なものは全て揃っている。行きなさい。」
「え? あなたは?」
「槍を狙う禍々しい邪念がこっちに近づいてる。引き止めとく。君は村を守ることに集中しなさい。」
リジーは素直に頷くと、
「一足遅かったな! 隠れてないで出てきたらどうだ?」
ピュン、ピュン! ピッ、ピッ!
「毒針か…先っちょ持ったら危なかったな。お通しとは気が利いてる。」
伸正は右手と左手の人差し指と親指でそれぞれキャッチした二本の針を地面に落とすと、念力を高めた。
「引き寄せられたいか、自ら日の光に当たるか選びな!」
「あんたの言いたいこと、俺ならわかる。この俺様が何者かを知りてえんだよな?」
影は姿を現した。西洋っぽい赤黒い上着にオリーブ色のズボンを着た二足歩行の180㎝以上の身長がありそうな茶色い毛の狼だった。
「それを求めるはあんたの本能。俺様はバルナバ。誰よりも自由のありかを求める者!」
そう言うと、バルナバは双方の手の爪を尖らせて構えた。対して伸正は顎に手を置いた。
(そうか、君が災狼か…。)
「おっさん、単刀直入に訊こう!
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