セルフサービスの街

左臼

セルフサービスの街

『お支払いが完了しました。商品をお取りください』


 その機械音声と、手元のスマホの表示に男は満足する。

 スマホに表示されているのは、購入したハンバーガーセットの代金。

 全国一律の価格よりも、1割は安い価格になっている。


「この街に来て正解だったな」


 ここは実証都市。

 スーパーシティー法案によって生まれた、通称セルフサービスの街である。

 特徴としては、可能な限りサービスに人員を割かないこと。

 スーパーやコンビニにレジ打ちはいないし、キャリアショップは街の中に無いし、ハンバーガーショップはモバイルオーダーオンリーになっている。

 住人はセルフレジを使ったり、オンライン限定のサービスを使わなければいけない。

 代わりにサービスが安価で受けられるようになっている。

 企業が払うはずだった人件費が浮いた分、消費者に還元されるようになっているのだ。

 今後来る人手不足を解消するために、サービスを可能な限りセルフにした際の実験を兼ねているのだという。


 男は若くて金が無い。

 けれど、バイタリティは十分に持っているつもりだ。

 セルフレジを使ったり、モバイルオーダーを使ったり、オンライン限定サービスに契約するのも苦にならない。

 だから、この街のことを聞いた時、こんなに自分に合っている条件は無いと思って、住民の募集に応募したのである。

 結果、運良く当選して、今この場所にいる。


「アルバイトの募集なんてないから、金稼ぐ方法が少ないのだけ困りものだけどな」


 当たり前の話だが、可能な限りセルフサービスなので、誰でもできるような単純作業がこの街には少ない。

特に強い資格もスキルも持たない男にとっては、手っ取り早く金をもらえる手段がないのが、数少ないこの街に対する不満点だ。


「まあブログでもライターでもやってみればいいだろう」


 男は慌てない。

 のんきにWeb上で完結する仕事で、生きていける分稼げれば今はいいやと考える。

 そもそもこの街の存在理由が、そういったアルバイトに無駄な人員を割かずに、もっと有意義なことを強制的にさせるようにしてみる。といったものなのだから。

 だから、ブログ記事作成とか動画作成とか、そういったクリエイティブな仕事に従事するというのは、この街でやらせたいことに合致するのだがら、とがめられるような話ではない。

 むしろ、この街は奨励している。


「さて、帰って映画でも見た後、ブログの書き方でも調べてみるかな……うっ…………」


 ハンバーガーを食べ終わって、立ち上がろうとした瞬間、男は胸を抑えて机に力なく倒れる。

 急性の心筋梗塞が発症したのである。

 そのまま、男は帰らぬ人となった。


 その場にも何人か別の客はいた。

 けれど、その誰もが救急車を呼んだり、AEDを使って救助しようとしたりすることは無かったのである。

 なぜなら、この街ではウェアラブルの腕時計型の端末でも付けて、異常が起きた際には自動で救助を呼ぶように設定しておくのが普通だと思われていたからだ。

 この街では、救急車を呼ぶのもセルフサービスが当然なのである。

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セルフサービスの街 左臼 @sourcemayomadai

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