第9話 コラボ配信だ!
『お兄さま、お姉さま、こんばんフラワー! さくらですっ』
『こんばんローズ! アンジェラでーす!』
今日のさくらちゃんの配信には、見慣れない3Dモデルが登場しており、お姉さん感あるセクシーボイスが響いている。
それもそのはず、普段はゲーム配信やカラオケをしつつ我々と交流をする彼女であったが、今日は違うのだ。一人ゲストとして同期のVTuberを招待してお喋りをしていた。コラボ配信というやつである。
『アンジェラお姉さま、コラボしてくれてありがとう!』
『うふふ! いいのよさくらちゃん。お姉さまとして、たまには妹の配信に顔を出さなくっちゃね』
この赤髪ボインで母性もたっぷりなVTuberに、嫉妬した女性ファンも多いのではなかろうか。しかし俺はお兄さまゆえ、このコラボレーションで悔しがることなど何もない。ただ満喫するのみ!
『じゃあねー。さくらちゃん、今日は心理テストのアプリを一緒にやってみようと思うの』
『はーい! 心理テストって、自分でも知らない自分が分かったりするから、とっても楽しみ!』
『うふふふ。さくらちゃんの、とーっても意外な秘密が暴かれちゃうかもね』
『ええー。なんか怖い』
この前振りで既にファン達からは流星の如くチャットが降り注いでいた。その幾多の星々の中には俺もいる。さくらちゃんの意外な性格が分かるかもしれないというだけで、俺達にとっては堪らない展開だ。
『はい。それじゃあ第一問よ。このイラストの中に絵を描いてみましょう、ですって』
『あ! 可愛い。絵本の中みたい。うーんと、じゃあこんな感じで』
さくらちゃんは言われるがままに絵を描き始めた。今日にでもゆるキャラの造形師になれちゃいそうなほど絵が上手く、そして可愛らしい。俺もみんなも速攻で『可愛い』と褒め称えるチャットを送りまくる。
既にハイパーチャットを送信している者もいた。
『はーいありがと。じゃあ答えを見ていくわねえ。ところで、どんな心理テストだったのかしら』
アンジェラは【次へ】をクリックして回答ページへと進む。ごくり、と生唾を飲み込む俺がいた。さくらちゃんは興味津々で答えを待っているようだ。
『あらー。どうやらこれは、さくらちゃんがどれだけ欲求不満なのかがわかるテストのようね。まあ! さくらちゃん、欲求不満指数60ですって。結構あるわね! あなたって、意外とそっちのほうもー』
『や、やだ! お姉様ったら。からかわないで』
声と体全身を揺らしている仕草でわかる。さくらちゃんは恥ずかしくて堪らないようだ。
『うふふ。ごめんなさい! じゃあ次のテストしてみましょうか。今度は普通のテストっぽいわね。質問がいくつかされるから、○か✖️で答えるのよ』
『は、はーいっ』
続いて簡単な心理テスト問題を回答していくさくらちゃん。一生懸命○か✖️を選んでは【次へ】をクリックしていく姿を見守っている。質問はラーメンは好きですか? とか結婚願望はありますか? とか多岐に渡るようだ。意外と質問数が多くて、もう十問以上答えているみたい。
『はーい! 全部回答終わったみたいね。さて、一体何が分かっちゃうのかしら? 楽しみねえ』
『なんかドキドキする! 次はアンジェラお姉さまの番だからね』
さくらちゃん最推しの俺としては、ずっと彼女のターンでいいのだけれど、逆に進行役になった姿も見てみたいと思う。
どうやら集計というかローディングが終わったらしい。
『終了ー。じゃあ結果を見ていくわ。今回のテストは……まあ! 意中のお相手がいるかどうかが解るみたいよ』
『え……ええー。ちょ、ちょっと待って』
明らかに狼狽え始める我が妹。やっぱり彼女も年頃の乙女である。きっといるんじゃないのか。
『じゃあ読み上げていくわね。この診断ではあなたに意中のお相手がいるかを確認することができます。ズバリ、今あなたは恋をしていますね! 大人しくてあまり自信がないあなたは、とにかく安心できる頼り甲斐がある人が好みです。きっと年上の人に恋をしているのでしょう。成就することを願っていますよ♪ ……だってー!!』
アンジェラのテンションが爆発したようだ。反対にさくらちゃんは固まっている。俺としても衝撃の回答内容に、ちょっと頭がクラクラしてきてる。
ようやく我に帰ったのか、今度はさくらちゃんの3Dモデルが忙しく左右に揺れた。
『は、はわわわわ! ち、ちち違うの! 私、そんなことないよおっ』
『うふふふ。ムキになって否定しちゃうあたりが、逆に怪しさを深めるのよ。でもねえさくらちゃん、あなたが好きな人、あたしはもう心当たりがあるのよ。ねえ、言っていい? ねえ』
な、なんだと。アンジェラは既に意中の相手すら見抜いているっていうのか。俺はかつてない緊張に全身を支配されてしまい、パソコンのモニター以外何も気にならなかった。テスト勉強とか宿題とか、月曜日からの学校生活など全般が頭から抜けている。
『えええ!? アンジェラお姉さま、知っているって……』
『うふふ! さくらちゃん、あなたの意中の人は……このあたしよ!』
『え』
『だってあたしがお姉さまだものー。というわけで! 決まりね』
『も、もうー! すぐそうやってからかうんだからぁっ』
そんなオチかよー。俺はガクッと緊張が抜けて脱力してしまい、軽く疲れを感じてしまった。とはいえ今日も頑張ったさくらちゃんへのハイチャは遂行しなくては。
すぐに気を取り直してタイピングしまくり、愛と電子マネーを乗せて送信した。
その後もさくらちゃんとアンジェラの心理テストは和気藹々と楽しく過ぎ去り、なんだかんだで一時間が経過した。
『今日はとっても楽しかったわぁ。ありがとうさくらちゃん』
『ううん! 私のほうこそ楽しかったよ! ありがとうアンジェラお姉さま。じゃあハイチャ読みするねー』
今日もこの時がやってきた。俺は自然と姿勢を正してしまう。神聖な儀式の時間だ。
『大食いキャップさん、ありがと! 夏うららさん、ありがと! ……あ、NEWブルボンは伊達じゃないさん』
で、出やがった。お姉さま筆頭格が。
『今日の心理テストは私の中で一番の衝撃だった。だって、遠回しに私への想いが吐露されたようなものだから。アンジェラよ、はっきり言っておこう。私がお姉さまだっ! ……あ、ありがとう』
どうやら、先程のアンジェラの発言に対抗する意図があったようだ。
『あらあらー。とんだライバルちゃんが現れちゃったわぁ。うふふ』
しかしさくらちゃんと同期であるお姉さま系VTuberは動じていない。貫禄すら漂っている。しかしまずいなぁ。俺のほうはといえば、今日は特に大したことはチャットに書いてなかったんだ。
『え、えーと。次は……はう!? 様イチローさん』
来てしまった。っていうか、なんかビックリされてる。
『心理テストとっても面白かったよ、いつもありがとう! あ、あああ……み、見られ……て……る』
『あら? どうしちゃったのさくらちゃん』
『え!? う、ううん! なんでもないよ。様イチローさん、こちらこそいつもありがとう!』
どうしてあんなに動揺したのかは謎だけど、今日はとびきり元気な声でお礼を伝えられて、俺は天にも舞い上がりそうな心地になっていた。
よし! これで月曜日からも頑張れる。爽やかな気持ちと共に、その日は終了したのだった。
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